2020年に開催される東京オリンピックがもたらす日本全国の経済波及効果は、少なくとも数兆円と言われている。過去を振り返っても、オリンピックとテクノロジの発展は密接な関係にある。世界的にスマートフォンがあたりまえに使われるようになった今、テクノロジを活用したさまざまな取り組みが、2020年をターゲットに進んでいる。
果たして、生活、働き方、モノづくりなど、各産業や業界はどのようにパラダイムシフトしていくのか。今回は「住まい」の視点から、スマートロック製品「Akerun(アケルン)」を手がけるフォトシンス代表取締役CEOの河瀬航大氏に話を聞いた。
Akerunは、スマートフォンを鍵にしてドアの開け閉めができる後付型のスマートロックサービス。ドアに付いているひねるタイプの鍵(サムターン)の上にとりつけたAkerun本体とスマートフォンがBluetooth認証する。ドアにスマートフォンを持って近づくだけで鍵を開けられるほか、ドアを締めたあと自動的に鍵がかかるオートロック機能も備えている。外出時はサムターンを回さなくても、本体に手でタッチするだけで開錠できる。価格は税別3万6000円。
専用のスマートフォンアプリから鍵の権限の受け渡しができるため、管理者は、鍵を渡したい相手が離れた場所にいても、LINEやFacebookなどのメッセージ機能を使ってURLを送り、承認することで家族や友人に合鍵を渡すことができる。時間を限定して鍵を発行できるため無断で合鍵を複製されるリスクを防げるほか、相手の入退室履歴をリアルタイムに閲覧することも可能だ。特にセキュリティを重視しており、第3者機関によるセキュリティ診断や、暗号化(AES256)、二段階認証などにより安全性を担保しているという。
鍵となるスマートフォンの紛失時には、24時間365日の電話サポートに連絡して利用を停止できる。端末ではなくIDとパスワードで管理しているため、紛失時にはたとえば友人のスマートフォンなどを使って開錠することも可能だ。単3リチウム電池4本で約2年間使うことができ、バッテリ残量はアプリから確認できる。残量が減ると通知するほか、電池切れ前にバッテリを郵送してくれるオプションも設けている。
Akerunを使うことで、たとえば家族や恋人、ルームシェア相手との鍵のやりとりを効率化できる。また、入退室情報を記録できる点を利用して、子どもや一人暮らしの高齢者の外出・帰宅情報をスマートフォンアプリから確認したり、オフィスや店舗のタイムカードとして利用することも可能になる。
フォトシンスを立ち上げる前は、ブログ・SNSの運用代行や投稿監視事業を展開するガイアックスに勤めていたという河瀬氏。2014年の頭に、パナソニックやソフトバンクなど、それぞれ別会社にいた現在のメンバーと定期的に飲み会を開いては、ビジネスプランのアイデアを出し合う中で、スマートロックを着想したと振り返る。
「当たり前すぎて何も思わなくなっているが、物理的な鍵は意外と不便で、わざわざ持ち歩く必要はあるんだっけと疑問に感じた。鍵をウェブで受け渡しできたら便利だし、合鍵もワンタイムで渡せるといいよねと盛り上がった」(河瀬氏)。
その日からプロジェクトがスタートし、毎週末にエンジニアが開発した成果物を持ち寄って議論する日々が半年ほど続いた。ただし、当初はあくまでも自分たちの生活を便利にしたいという“趣味”の範囲で開発していたため、事業化するつもりはなかったという。そうした思想から始まったこともあり、メーカーのようにドアノブごと取り替えたりせず、わずか5分で装着できる後付けタイプの製品を開発することに成功した。
事業化のきっかけとなったのは2014年の夏にメディアに取り上げられたこと。そこから、出資の話が舞い込んだり、多くの人から応援メッセージが寄せられたりするようになり、「この課題を解決したいのは僕らだけではないことに気づいた。量産化して価値提供できたら面白いと思い、(2014年)9月に会社を立ちあげた」(河瀬氏)。
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