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Apple Watchは高級時計の夢を見るか?(後編)--弱点とアップルが試みた「再定義」 - (page 2)

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Apple Watchのハードウェアとしての弱点

 ただすべての時計がそうであるように、Apple Watchにもハードウェアとしての弱点は存在する。1つは厚みだ。Appleはシャツの袖に引っかからないよう、時計の角を極端に丸めた。これならば、いつでも袖をめくって時計を見ることができるだろう。ただし10mmを切れば装着感はいっそう改善されたに違いなく、第2世代以降、Appleは厚みを減らすのではないか。

 もう1つが防水性だ。優れた操作性とのトレードオフとして、この時計は十分な防水性を備えていない。その最大の理由が、コントローラーとして採用されたリュウズ(Appleはデジタルクラウンと呼んでいる)にある。裏蓋まで一体成型されたケースを持つため、この「時計」は、理論上高い防水性を持てる。しかしリュウズには、防水パッキンを入れても、防水性を持たせにくい。Apple Watchのようにリュウズを頻繁に回す場合はなおさらだ。普通に使う限りは問題なさそうだが、アルミケースのSportはラフに使われるはずだ。その際、防水性能はきっと問題になるだろう。リュウズを止めたら防水性能は改善できるが、Appleは防水性よりも、操作性を優先したと考えられる。

かなり厚く見えるが、ケース厚は10mm程度しかない。重心は高いはずだが、時計を薄く軽く作ってあるため、着け心地は良好だ。とりわけ、ブレスレットやストラップの重さとのバランスを取るという配慮は、今までの時計メーカーにさえほとんどなかったものだろう
かなり厚く見えるが、ケース厚は10mm程度しかない。重心は高いはずだが、時計を薄く軽く作ってあるため、着け心地は良好だ。とりわけ、ブレスレットやストラップの重さとのバランスを取るという配慮は、今までの時計メーカーにさえほとんどなかったものだろう

 またSportが採用したアルミケースとIon-Xガラスは、耐久性に疑問がある。前者は耐食性が低く、後者は傷には強いが、強い衝撃を受けると割れやすいだろう。もし仮にアルミケースが錆びず、風防が割れないならば、Appleは時計業界に対して大きな貢献をすることになる。しかし現時点で、それを測るすべはない。やがてAppleはカーボン素材を使う、と筆者は予想するが、カーボンケースの耐久性は、まだアルミ並だ。アルミの採用はやむを得ないところか。

 そして最後が、バッテリライフである。18時間以上という駆動時間は、多くの機械式時計の半分以下でしかない。携帯電話はさておき、毎日充電器にセットするという習慣を、人々が時計に対して持つだろうか?少なくとも筆者は、Apple Watch用の充電器をカバンに入れて持ち運ぶことはないだろう。

 こういった弱点はあるものの、Apple Watchはライバルに対して、相対的な成功を収めるはずだ。というのも、ハードウェアとして見た場合、Apple Watchを例外として、大半のスマートウォッチは時計としての最低水準にさえ達していないからだ。もちろんPebbleといった、コミュニティから熱狂的に支持されるものは、別の方向性で成功するだろう。ただそれは、ハードウェアとしての完成度とは次元の違う話であり、メーカーにコントロールできる要素ではない。

 逆説的な物言いになるが、腕時計メーカーでなかったカシオは、腕時計メーカー以上にらしくあろうとした結果、生き残った。そして現在のAppleも、腕時計以上に「らしい」時計を作り上げた。優れた外装と、時計の「お約束」を守ることによって、である。先述したとおり、改善すべき点は少なくない。とりわけ電池の寿命と防水性能はApple Watchの大きな弱点になるだろう。しかしハードウェアとして見た場合、この「時計」が、類似品の中でもっとも弱点が少ないのも事実だ。平均点の高いプロダクトは、実用品として生き延びる可能性が高く、やがてApple Watchはそういう立ち位置を獲得するのではないか。

Apple Watchが時計業界に突きつけたもの

 ではApple Watchの出現は、どういったインパクトをもたらすのか。ソフトウェアがわからない筆者に、それを語る資格はない。ただ時計業界に限るならば、Apple Watchはある種の革命をもたらすだろう。それは、既存の時計を置き換えるという類のものではない。Piaget CEOのフィリップ・レオポルド=メッツガーが語ったように、むしろApple Watchは、時計業界にとっての脅威ではなく、すそ野を広げる入り口になるだろう。G-SHOCKが多くの時計愛好家を育てたと考えれば、メッツガーのコメントは正鵠を射ている。

 Apple Watchが時計業界に突きつけたものとは、既存の時計を置き換えるか否か、ではない。たった500ドルの、数年たったら陳腐化する「ガジェット」が、5000ドルや1万ドルの高級時計にそん色ない質感を備えただけでなく、時計としての条件を、かなりの部分で、腕時計以上に満たした点にこそある。すべての腕時計が、Piaget並みの質感を備えていれば、メッツガーのような意見も述べられよう。しかしすべての時計メーカーがPiagetになれるとは限らないのである。

 Appleが再定義を試みたのは、腕時計という概念だった。そして腕時計としての体裁を十分に備えたApple Watchには、それを問う資格がある。のみならず、Apple Watchを目にした筆者には、Appleが、ラグジュアリーという概念そのものにも再考を迫ろうとしているようにも感じる。iPod以降の優れたデジタル端末を見る限り、スティーブ・ジョブスが「ラグジュアリーの民主化」を志していたと推測して、あながち外れてはいないだろう。

 ではその具体的な挑発に対して、ラグジュアリーの世界は、どう応じるのか?今のところ、それに対する明確な答えは目にしていない。

Apple Watchは高級時計の夢を見るか?(前編)--iPod時代から続く時計との関係

広田雅将

時計ジャーナリスト。

時計専門誌『クロノス日本版』主筆。国内外の時計賞で審査員を務めるほか、学会や時計メーカーなどでも講演を行う。一般誌、専門誌で執筆多数。

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