マイクロソフトでは、世界各国のスタートアップ企業を支援する「Microsoft Ventures」(MSV)を2013年から展開している。起業したばかりのスタートアップへのアクセラレータプログラムから、実績のあるスタートアップに対する協業プログラムまで支援の幅は広い。また、支援先には「Microsoft Azure」を始めとする同社のクラウド環境や開発ツールを無償で提供している。
現在、世界の7拠点でアクセラレータプログラムを運営。2014年2月には日本でもプロジェクトを開始した。これまでに272社が支援プログラムを卒業しており、このうちの8割が追加で資金を調達。また、16社がグーグルなどの大手企業に買収されているそうだ。12月末に来日していた米MSV プリンシバルのAya Zook氏と、日本マイクロソフト エバンジェリストの砂金信一郎氏に、マイクロソフトがスタートアップ支援に取り組む狙いや、グローバルでのスタートアップのトレンドについて聞いた。
Zook氏 : 私はマイクロソフトに入社して8年目になります。最初の2年はMSNのブランディングを、そのあとはブログサービス「Windows Live Spaces」(2011年3月に終了)のデジタルマーケターを2年ほど担当しました。ちょうどその頃は、ポータルからサーチへと時代が変わったタイミングだったので、マイクロソフトとしても本格的にサーチに注力しようということで検索エンジン「Bing」を立ち上げ、ここに3年ほど関わっていました。
サーチはいかに多くのサイトで自分たちのAPIを使ってもらうかが重要になります。特にスタートアップはアプリ内で検索エンジンやマップのAPIを多く利用しているので、じゃあ彼らが成長する前から支援しようということで、社内にBing Fundという小さなファンドを設けて10社ほどに投資しました。ただ、Bingと言ってしまうとどうしても検索エンジンがらみと思われてしまうので、やはり会社全体でこういうモデルにチャレンジしてみようじゃないかということで、1年半ほど前にMSVを立ち上げました。
Zook氏 : 投資もするし、アクセラレータにも取り組むし、ツールやワークショップなども提供する、包括的な支援プログラムとなっています。いまは7カ国でアクセラレータの活動をしています。インドのバンガロール、中国の北京、ドイツのベルリン、イギリスのロンドン、フランスのパリ、イスラエルのテルアビブ、そして2014年8月に米国のシアトルにも拠点を構えました。よく、「なぜシリコンバレーでやらないのか」と聞かれるのですが、シリコンバレーには山のようにアクセラレータがありますので、あえて他社が進出していないエリアを選んでいます。そこに起業家が育つ環境があるか、テックなコミュニティがあるか、若者はいるかなど、基準はさまざまです。2015年6月までには拠点を10カ所に増やしたいと考えています。結構少人数で活動していて、1つのアクセラレータにつき最低3人です。Y Combinatorスタイルとあまり変わらないのですが、マネージングディレクターが1人、オペレーションが1人、CTOが1人という形ですね。
砂金氏 : 各国の拠点の雰囲気は全然違いますね。それがいいことかどうかは分かりませんが、MSVではそれぞれの地域や都市のエコシステムにできるだけ溶けこむことを目指しているので、マイクロソフトのやり方を押し付けることはしません。ただ、プログラムとしては共通のものを提供するのだけど、やはりイスラエルのやり方はインドでは通じません。スタートアップと投資家がいい関係を築くには、現地のエコシステムに精通して人脈をもっている人がマネージングディレクターをやるべきで、そうするとその人のカラーでアクセラレータが出来ていきますよね。そのため、メンバーも初めからマイクロソフトの人間をつけるのではなく、現地のコミュニティから引っ張ってくるようにしています。
Zook氏 : 以前はサーバのコストや周りに支援者がいるかということが重要で、「この地域でなければ難しい」ということがあったと思うのですが、いまではオープンな環境でイノベーションを起こせるようになりました。もう誰もが使えるアプリとか、一番早く儲けられるサービスを作る時代ではなく、テクノロジで問題を解決する時代なのだと思います。地域の問題にフォーカスして、世界規模で解決する問題はマイクロソフトやグーグルと組んでやればいい。もはやテクノロジは生活の一部となっていますし、ITに詳しくない人でも問題に取り組める。そういう状況を作ることが一番の価値なんじゃないかなと。
マイクロソフトならではの強みは、世界各国に誰かしら社員がいてスタートアップの支援に取り組んでいることですね。いまからそこへ行って一からやるのではなく、すでに現地のエコシステムの特徴を理解している。たとえばトルコのナンバーワンのスタートアップはどこかと聞けばすぐに分かります。あいつが知っている、どういう問題に取り組んでいるということを教えてくれるパートナーアクセラレータも200以上います。最近はナイジェリアの「88mph」という、アフリカのローカルの問題に取り組んでいるアクセラレータとも組みました。そこから何が生まれるかは分かりませんが楽しみですよね。
私たちは「オープンイノベーション」というコンセプトを持っています。やはり昔と違ってスーパーアスリートが皆をぐんと抜いて、プラットフォームや新しい時代を作るというモデルはどんどん少なくなっています。団体スポーツというか、俺がこれをやるからお前はこれをやってくれ、それでプラットフォームとしていいものを作ろうというメンタリティにどんどん変わってきているのだと思います。
Zook氏 : 3つあると思います。1つ目は、すでに経験値のある社内のメンバーと引き合わせられることです。テクニカルな面で似たようなチャレンジはあると思うのでそこをサポートできる。次にリソース。フィジカルなスペースからマイクロソフトが提供するツールなどですね。最後がパートナーの紹介。マイクロソフトはパートナーエコシステムで築かれた会社です。グーグルなど多くのプラットフォーム企業がありますが、企業とのつながりという意味ではやはりこちらの方が強い。パートナーからも、イノベーションをしたいけれど糸口が見えないという相談が多く寄せられます。そういう企業に対して、イノベーションノウハウとまではいきませんが、どういうことをやりたいのか相談にのって支援することはできると思います。
スタートアップは大きく2つのことを求めています。1つはお金、もう1つは顧客です。お金はいろいろなところから持ってこれます。いまはどの企業もベンチャーキャピタル(VC)を持っていて資金を提供してくれます。ただ、お金だけでなくそこに付いてくる付加価値が重要なのです。やはり、クオリティの高い顧客を提供できるのはマイクロソフトやインテルなど限られてくる。そこで他社とは差別化できると思っています。
Zook氏 : そうですね。ただ、IoTもそろそろモバイルなどと同じカテゴリで考えるのはおかしいんじゃないかと思っていて、やはりその中でのプロダクトですよね。マイクロソフトの強みであるエンタープライズ向けのソリューションをスタートアップと一緒になって考えていくことがシアトルでの次の題材です。いまもエンタープライズというスペース自体はありますが、そこからすごいものはまだ出てきていません。
といっても、マイクロソフトとの親和性はそこまで重視していません。一番大切なのはチームやビジョンです。今の時代、ワーキングスタイルはオフィスの中だけではないので、いろいろなところから異なる考えの人が集まってこそバリューがあると思っています。アクセラレータの裏ゴールじゃないですけど、そういう人たちを「Office 365」や「Microsoft Azure」のチームに連れていくことで、社内にも刺激を与えてほしいですね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス