朝日インタラクティブが12月16日に開催した「第2回 CNET Japan Startup Award」で、ビジネス誌や専門媒体、大手新聞社など各分野で活躍する現場記者が、「メディアから見えるスタートアップの『今』」をテーマとして2014年に注目したスタートアップや、これから注目していく分野について語った。
登壇したのは、朝日新聞社デジタル編集部 記者兼編集者の古田大輔氏、東洋経済新報社 編集局 企業情報部記者の田邉佳介氏、THE BRIDGE代表取締役で編集長の平野武士氏、CNET Japan編集記者の藤井涼の4人。モデレーターはCNET Japan編集長の別井貴志が務めた。
今年注目を集めたスタートアップで、まず話題に上がったのはGunosy、SmartNews、NewsPicksなどのニュースキュレーションサービスだ。
新聞社で記者を務める古田氏が「ニュースの配信のあり方を変え得るもの」と語ったのが印象的だった。田邉氏は「ニュースキュレーションは巨額の資金調達をしたことでも注目。Gunosyの盛り上がりは、日本に尖った情報を求めるユーザーはそれほど多くないのでは、という視点を既存メディアの人間に抱かせた」と語った。
藤井は「フリマ、ニュースキュレーション、会計の領域など、さまざまな領域が盛り上がった。CNET Japan賞を受賞したBrainWarsは、リリース当初から言語に依存せず、グローバルを狙ったサービス。LINEから出資を受けており、今後の展開にも注目」とコメント。平野氏は「どのスタートアップにも注目しているが、取材前の想像とギャップがあるサービスには注目している」と述べた。
平野氏の話に具体例として登場したのは、主婦などの在宅ワーカーを中心としたクラウドソーシング事業「Shufti」を展開するうるるだ。同社は1500社近くの企業ユーザーを抱える全国の入札情報のデータベース事業「NJSS」を運営しており、こちらの自社事業展開に「Shufti」を活用することで収益を上げている。クラウドソーシングは薄利なのでは、と考えていた平野氏にとってこのビジネスモデルは驚きだったという。
この先注目したいスタートアップや領域に関する話題でも、最初に挙げられたのはニュースキュレーションだった。古田氏は「プレイヤーは増えてきたが、まだ参加の余地はある。かつてGoogleは『検索の次はなんだ?』と言われているタイミングで登場した。2015年、キュレーションをすべて持っていってしまうプレイヤーが登場する可能性は多いにある」とコメント。
田邊氏は言語の壁を越えるものとして、体験として楽しさをユーザーに提供できているサービスやプロダクトについて言及。BrainWarsや、車いすのWHILLの名前を挙げていた。藤井はKDDIの「Syn.」の登場に触れ、Yahoo!に代わるスマートフォンのポータルを目指す動きが出始めていること、そして12月に発表されたCocoPPaによる新サービス「CocoPPa Home」を紹介しつつ、スマホのホーム画面が一番のポータルになるのでは、と持論を語った。
平野氏は「2000年頃に『クリック・アンド・モルタル』という言葉があり、当時はインターネットは時間と空間を超えるツールとされていた。その頃のアイデアが実現されつつある」とコメント。弁当の宅配やクリーニングのオーダーなどがアプリから可能になったこと、牛の状態を記録していく「ファームノート」など、実生活の利便性を向上させるサービスが登場していくのでは、と語った。
一方で、テクノロジーの進歩速度にITに慣れていない人のリテラシーが追いついていない問題についても語られた。
大手メディアと專門媒体では記事の取り上げ方が異なる。それぞれの記者が記事を書く際に気にしているポイントについても語られた。
古田氏はいまは小さかったとしても、将来的に大きくなる可能性に注目していることを述べた。「新聞社は公共性を考える。そのため、マーケット規模など社会にどれだけのインパクトをもたらすのかが、取り上げる上で重要」(同氏)。
田邊氏は、シードとミドル以降では注目するポイントに違いが出ることを説明。経済誌で記者を務めている田邊氏は「ミドルステージ以降はチェックするようにしている。立ち上がったばかりのシード期は起業家の想いが重要だが、ミドル以降だとメディアで注目されているところでも、財務状況は赤字のこともある。そういった点も見るようにしている」とコメントした。
専門誌としてスタートアップを中心に取材している平野氏は、オフィス環境をチェックするという。「取材ではオフィスに行くようにしている。オフィスの環境でその後成長するかどうかがわかる」とこれまでの経験からのコメントを述べ、藤井も同様にオフィスの取材はするようにしていると話した。
媒体ごとに担っている役割は異なる。取材されるために記者にアプローチするスタートアップは、どういった点に配慮するべきか、事前に考えておくと良いだろう。
最後に、スタートアップを取材する記者たちから、スタートアップに向けてメッセージが語られた。
古田氏は「スタートアップの人たちが未来を作っていく。スタートアップの人たちが思いついたアイデアが世の中を変えるかもしれない。フィンランドでは、Nokiaが下がり調子になった後にスタートアップを育てる土壌ができたことで、社会構造が変化した。日本でもそうなっていってほしい」と、起業家は“出る杭”だという500 startupsのジョージ・キャラマン氏の言葉を紹介しながら、スタートアップに声援を送った。
田邊氏はEvernote CEOのフィル・リービン氏や、Skypeの創業者のニクラス・ゼンストローム氏を例に挙げ、最初からグローバルに展開しようする意識の大切さについて言及。また、阿里巴巴のジャック・マー氏の「大きいところと同じやり方をしていては勝てない。小さいからこそできる勝負の仕方をするべきだ」とソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏に語ったというエピソードを紹介した。
藤井はマーケットが盛り上がっていることを紹介し、従来よりもチャンスがあることを強調。ヤフー代表取締役社長の宮坂学氏の「迷ったらワイルドなほうを選べ」という言葉を引き合いに出しながら、事業を起こしたい人に向けて、起業を促すメッセージを投げかけていた。
平野氏は「起業家と投資家が出会うと、経済的なインパクトと雇用を生む。お金もないし、人もいない。そのなかで経済的なインパクトを与えようとしている。そういう人たちを私達は応援したいと思っている」とコメント。さらに、自身が運営するTHE BRIDGEという専門誌の役割は、スタートアップの窓口となり、大手メディアに取り上げられる前の段階のスタートアップを取り上げることで、周囲に対する説明のコストを下げることだと語った。
現場でスタートアップを取材する記者達は、厳しい目でスタートアップをチェックしている一方で、その将来性に期待していることが伺えるセッションだった。
資金調達の規模も大きくなり、それにともなってメディアの目もスタートアップに向きやすくなっている。すでに起業している人、もしくはこれから起業しようとしている人は、このチャンスを活かしてもらいたい。
なお、イベントはTHE BRIDGEが協力し、このセッションは協賛企業のバリュープレスが企画した。
◇Award最優秀賞は「メルカリ」
世界に挑む急成長スタートアップを表彰--「第2回 CNET Japan Startup Award」
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