市場調査やマーケティングには、アンケートを利用することが多いが、藤井氏は「言語を介すると、記憶や意識が影響することがあるかもしれない」という。だが「アイトラッキングを使用すれば、視線の動きにより、無意識、本音がより正確に示される。しかし、すべてを視線分析にするのではなく、現行のアンケートやインタビュー形式に、アイトラッキングを付加する提案をしている」と語り、この新しい技術が、従来のマーケティングを補強するとの考えを示した。
アイトラッキングによる調査は、以下のような過程で実施される。まず予備調査に着手し、仮説洗い出し、仮説検証、その結果をもとに、KPI化し、課題解決につながる「視線メトリクス(説明変数)」を特定する。
ここまでが予備調査であり、導入側企業が高く評価すれば、ハード、ソフトの購入やレンタルを選択したり、調査を委託したりというステップにつながる。同社がトレーニングや支援する、DIYサポートも用意されている。
実際、アイトラッキングは、マーケティング領域で、さまざまな実績を上げている。ダイドードリンコでは、飲料の自動販売機の調査に利用した。人が広告やウェブサイトを見る際、視線の動きを表現する「Zの法則」と呼ばれる説がある。つまり、視線はZの文字を書くように、左上、右上、左下、右下の流れで動くため、この「Z字」上に重要度の高いコンテンツを配置すればよいとされる。
自販機でいえば、この順番をたどる線に、売れ筋商品を置けば最適ということになる。ところが、アイトラッキングによる調査によれば、実際に消費者の視線は、左下から徐々に上にがっていた。そこでダイドードリンコでは、コーヒーなどの人気商品を左下に移動させたところ、売り上げが3割増加した。
これ以外にも分析結果を活かし、自販機には色を付けた方が消費者の目に入りやすい、缶コーヒーなどの商品パッケージからキャッチコピーを省き、商品ロゴを大きくするなどの改革を実行した例もあるという。
またある流通業は、店頭の棚割りにアイトラッキングを利用した。事前の想定では、衝動買いを狙う商品は、8段ある商品棚のうち、ゴールデンゾーンとされる7段目、すなわち一般的な人間の目の高さあたりに配置すべき、というものだった。
しかし調査から導き出されたのは、それよりやや低い、4段目、5段目が最もよく見られており、手に取られることも多くなる――との事実だった。そこでこの企業では、衝動買い狙いの商品を4段目、5段目に置くことにした。
アプリ開発会社の場合、画面上での視線を調査した。事前の想定は、アイコンが見られれば、アイコンをクリックする以前に、情報の内容は理解されている――だった。だが調査の結果、コンテンツの属性によりけりで、理解度が異なっていた。
「ニュース」であれば、見られることで情報の内容まで理解されているが、「ゲーム」では、見られていても情報の内容までは理解されていないことがわかった。この事実に基づき、ゲームのように内容が理解され難い傾向のあるコンテンツは、アイコンを改善するとともに、マウスオーバー時に説明画像を付加することにした。
ネット系メディアでは、広告レイアウトに活かしている例がある。事前の想定では、ページ上部に配置した広告が最もよく見られ、記憶にも残る――という認識だった。ところが調査結果が示したのは、ページ上部の広告は最もよく見られるが、下部にある広告も見られさえすれば、上部にある広告よりも記憶に残る。さらにネット上級者ほど、上部の広告をスキップする傾向が強まっているという実態だった。このような実態に即して、ネット上級者のスキップに歯止めをかけるため、ページ上部の広告に変化をつけたほか、下部の広告価格を上部の広告価格に近付けた、とのことだ。
これらの調査結果からわかる事実は、経験値からも推測はできるが、そのままでは推測にすぎないということ。藤井氏は「企業では熟練者が暗黙知を得ており、それらは蓄積され共有されるが、アイトラッキングは、暗黙知を形式知に変えられるため、現状のマニュアルに付加し、体系化することで利用してもらえればよい。さらに今後の展開として、発汗、表情なども材料として分析し、エンドユーザーに対し、アンケートをしなくても、意識を探ることできる予測モデルも考えている」と述べ、アイトラッキングは、企業が蓄積している、眼に見え難い資産の活用にも有用であることを強調した。
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