野菜事業に踏み出した東芝の本気度--プロジェクトリーダーが語る立ち上げから収益化まで

 11月27日、東芝ブランドの野菜が東京都内の百貨店など12店舗に初出荷された。育ったのは神奈川県横須賀市にある「東芝クリーンルームファーム横須賀」だ。元フロッピーディスク工場をリノベーションし、9月から植物工場として稼働。レタスや水菜、ほうれん草などの野菜栽培を手がける。

 大手電機メーカーとして、また電力、社会インフラ事業に取り組む企業として知られる東芝が、なぜ今“野菜”を育て、販売するのか。東芝の新規事業開発部参事の植物工場プロジェクトリーダーである松永範昭氏に聞いた。


クリーンルームファーム横須賀内

社内には野菜を作るための技術がすべてそろっていた

--5月の野菜生産の事業化を発表してから出荷に至る現在まで、反響はいかがですか。

  • 東芝の新規事業開発部参事の植物工場プロジェクトリーダーである松永範昭氏

 非常に大きいですね。9月末から稼働してまだ2カ月と少しですが、工場見学のオファーや海外から問い合わせをいただいています。情報伝播のスピードと広がりは予想以上です。

--「東芝が野菜を作る」という驚きが大きいと思うのですが、野菜栽培を手がけるまでの経緯を教えて下さい。

 東芝ではエネルギー、ストレージ、ヘルスケアの3事業を通して、安心・安全・快適な社会を目指すために取り組んでいます。野菜栽培はヘルスケア事業の中の1つとしてスタートしました。

 そうした取り組みの中で今後のトレンドをグローバルで見据えたときに国や地域によって水不足や寒冷地などの理由で安定的にかつ安全な作物が収穫できないところもあり、最も身近で重要な食料に関わる部分で東芝の技術を使って貢献し、ビジネスをしていきたいという思いがありました。

 ただ、東芝というと食物を加工したり保存したりする“機械”を作るイメージだと思います。そうした機械ではなくて、野菜を選んだ理由には、東芝が持つ技術力、開発力を掛けあわせた結果、野菜を作るための技術がすべて社内にそろっていたからです。

 レタスを作ろうと思った時、光、水、空気、エネルギーに加え、生産管理などのシステム技術が必要になります。そうした技術は東芝グループ内ですべて補えます。また光にしても空調にしても、超最先端技術というより、すでに商品化しているものの一部を少し変更するだけで使えるものが多いのです。

 東芝が野菜を作るというと、完全に一から始める新規事業のイメージがあるかと思いますが、社内にある多くの技術をつなげ、調整すれば植物工場のための技術が構築できると思いました。単体で使っている技術を一つにまとめ、有機的につなげる。これは総合電機メーカーとしてもやるべきだと感じています。

 実際、植物工場用の技術を作り上げていく時は、各ジャンルの技術者に直接たずねながら対応していきました。例えば光は照明器具や電球の開発、製造を手がける東芝ライテックにお願いしていますが、蛍光剤を変えたり、光の波長を少し違うものにしたりすることで、植物用の蛍光灯が出来上がりました。空調にしても水にしても、今ある技術をベースに「こういう風に変えたい」と伝えて、話し合いながら作り上げていったのです。

--事業立ち上げから出荷まで、どのくらいの期間がかかりましたか。

 植物工場は新規事業開発部が担当していますが、部署自体を2013年の10月に立ち上げ、約1年で実現しています。もちろん食糧問題解決に対するビジネスに関しては随分前から調べていたのですが、3月に決済が下りて、5月にリノベーションを開始し、9月30日に稼働開始というスケジュールでした。

 「かなり早い」と言われますが、東芝はこの事業では後発ですから、ある程度モデルも見えていますし、失敗事例なども見ながら取り組んできたことが、このスピードにつながっていると思います。また技術やソフトウェアなどがすべて東芝のグループ企業内で対応できたのも大きいですね。同時並行で進めることで、1年間という限られた期間で出荷までこぎつけました。

 先行他社の状況を見ながら立ち上げられたこと、社内にある多くの技術をいかせたこと、この2つがうまく機能したと思います。

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