途上国に“イノベーションを届けるエコシステム”を構築--コペルニク中村氏の挑戦

 朝日新聞社は11月26日、同社が推進している「未来メディアプロジェクト」の一環として、ゲストを招いて社会の課題を考え、テクノロジやメディアを使って解決するためのアイデアを出し合い学びあう「未来メディア塾 オープン・カフェβ」を開催した。第1回目のゲストとして、米国NPO法人コペルニク代表の中村俊裕氏が「世界を変えるイノベーション 国連を経て挑戦」と題した講演を行った。


コペルニク代表の中村俊裕氏

 中村氏が2010年に創立したコペルニクは、テクノロジの力でイノベーションを作ることができる世界中の企業、途上国を支援している市民団体、そして途上国を経済面で支援する寄付者という3者をインターネット上で繋ぎ、途上国の中でも支援が行き届かない“ラストマイル”の貧困問題を解決する活動を行っている。途上国のニーズを現地の市民団体から聞き出し、必要とされているテクノロジや製品を提供するためインターネット上で寄付や開発者を募る一方、現地の人たちが自らその製品を販売したりレンタルしたりできる価格や仕組みを作り出し、途上国の人々の自立と生活の向上を支援しているという。

 こうした中村氏の活動の原点となったのは、国連における約10年間の経験だ。「UNDP(国連開発計画)の仕事に従事しているときは“これが僕の生涯の仕事になる”と思いとても充実していましたが、一方で気になることがあった。それは、支援する国、支援を受ける国、国連という3者の関係に、それ以外のリソースやアイデアを持っている企業や団体が入っていける仕組みがないこと。実は途上国向けのテクノロジは世界中のベンチャー企業から数多く生まれていて、それを問題解決に活用すれば従来の支援の仕組みとは異なる形が生み出されるのではないかと考えていた」と中村氏はコペルニクの設立経緯を語る。

 コペルニクの活動を通じて、テクノロジが課題を解決した事例はさまざまだ。たとえば、電気が届いていない地域では主に灯油ランプを使って生活しているが、灯油はコストが高く、本を読むのも大変なくらい薄暗い。そこで、太陽光で十分な明るさを確保できるソーラーライトを提供し、夜でも仕事ができるようにしたり、灯油のコスト負担をなくしたりするなど生活の改善に寄与した。

 また、十分な炎を確保するのに大量の薪を必要とし、有害な煙によって多くの死者が発生している調理場に、燃焼効率の良い調理用コンロを導入。そして、汚い水を生活用水として使用しなければならず伝染病などのリスクにさらされていた環境に対して、電気を使わずに簡単に水を浄化できる浄水器を提供し、きれいな水を使えるようにした。

  • ソーラーライト

  • 燃焼効率の良い調理用コンロ

  • 電気を使わずに使える浄水器

 中村氏は、こうした途上国の生活環境にあるさまざまな問題を解決するためのテクノロジを常に探し続けると語り、「世界中のベンチャー企業がこうしたテクノロジを作っている。たとえば、ソーラーライトはスタンフォード大学の卒業生が作ったベンチャーが開発し、浄水器はオランダ人起業家が開発したもの。いろいろな人たちが彼らなりに貧困層の課題を発見して、それを解決しようとモノを作り出している。それは貧困層向けの商品なので安価で使いやすく、そして壊れにくいといった条件を満たしている」と世界中のベンチャー企業が生み出すテクノロジが、途上国の貧困問題解決に大きく寄与している現状を紹介した。

 コペルニクの活動の興味深い点は、こうしたベンチャー企業が生み出すテクノロジをただ途上国に“寄付”するのではなく、そのテクノロジを現地の人たちが“販売”できる仕組みを作り、そこにビジネスを生み出しているという点だ。たとえばインドネシアでは、現地の住民を集めて商品のプレゼンテーションをし、その反響で販売する商品を決定、ニーズの高い商品については普及のための活動を展開する。販売にあたっては、現地の女性グループと協力して訪問販売をしたり、現地の売店に商品を販売する“テック・キオスク”を展開して店頭販売をしたりしているという。これが、コペルニクが貧困層の“自立”を支援しているポイントだ。

 中村氏は、こうした活動の相乗化によって生まれる効果について、「さまざまな企業が興味をもち、貧困層向けの商品やアイデアを提案してくれることが多くなった。私たちにとっても、良い商品が集まり現地の人々にとっての選択肢の幅が増えることは素晴らしいこと。商品やアイデアを持つ企業の共同開発は積極的に支援していきたい」と語る。実際に企業や団体とコラボレーションして共同で現地マーケティングをしたり、生産・流通のコンサルティングをしたりしているのだそうだ。また、中村氏がかつて在籍した国連からも声が掛かり、世界銀行、UNDP、ユニセフなどと連携して新しいアイデアやテクノロジによって途上国を支援していく国際的な仕組みづくりを進めているという。

  • テック・キオスクの例

  • コペルニクの活動の広がり

 中村氏は、こうした活動を通じて感じることとして、「さまざまなものの境界がなくなってきている」と語る。たとえば、コペルニクに参加しているメンバーは国籍を問わずさまざまなバックグラウンドを持つ人々が集まり、一つの目的のために活動している。また経済圏について、従来は欧米や日本などOECD(経済協力開発機構)を構成する国がGDPの中心だったが、今後はアジア、アフリカのGDPが占める割合が高まり、先進国、途上国の垣根がなくなっていく。

 そして、「営利」と「非営利」の垣根もなくなっていき、モノづくりの活力を持つビジネスと課題の発見や普及活動に長けた市民活動それぞれの強みを活かしたハイブリッドバリューチェーンが生まれ、また非営利の「チャリティ」と営利の「投資」を組み合わせ、インパクトのある社会活動に投資を行い収益も得るという「インパクトインベストメント」や「ベンチャーフィランソロフィ」といった戦略的な投資のあり方も拡大しているとした。

  • OECDが中心だった経済の構造が変わっていく

  • 営利・非営利の垣根がなくなり、ハイブリッドバリューチェーンが生まれる

  • 投資とチャリティの間を埋める様々な投資のあり方が生まれている

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