電子書籍ビジネスの真相

プロデビューしたら「自己出版本」はどうするべき?--実例から考察

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2014年09月09日 08時00分
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 こんにちは林です。電子書籍について、もろもろ書き連ねるこの連載。今回は、自己出版(セルフパブリッシング)を取り上げてみます。

 セルフパブリッシングというと、年長世代の方は「自費出版」を思い浮かべることが多いと思います。

 「作品を送ってください! 全国の書店で売らせていただきます」といったような広告を見て申し込むと、「素晴らしい! ぜひ出版しましょう」とおだてられ、気がつけば100万~数百万円の費用を請求され、その実、並ぶのは特定の書店の特定の棚に、短期間だけであったり、実質まったく市場に出ないこともある――。

 こうした「出版」とはとてもいえない、詐欺まがいの事業をやっていた業者が一部におり、90年代からゼロ年代にかけて、訴訟沙汰になることも多かったと聞きます。

 ここで取り上げる「自己出版」というのは、こういう「自費出版」とは、まったく異なるものです。

国内外の自己出版作家たち

 2007年、アマゾンはKindleの第一世代の発売と同時期に、「誰でも無料で電子書籍を出版できる」というプログラム(現在の名称は、Kindle Direct Publishing=KDP)を開始しました(当初はベータ版)。これが現代的な意味の“自己出版”の最初の例で、コボのKobo Writing Life、ヌックのPubIt!(現在はNOOK Pressという名称)など、類似サービスが多数立ち上がりました。

 KDPを例に取ると、必要なのはWordやHTML、標準的な電子書籍ファイルの形式であるEPUBの原稿ファイルを用意し、アマゾンのサイトにアップロードすることだけ。印刷代、製本代、配送代、編集費、システム利用料などのコストは一切かかりません。

 それでいて、印税は小売価格の35~70%と紙の本よりも高く、アマゾンのサイトやメルマガなどを通じてプロ作家と同じ土俵で売ってもらえる、ということで、KDPを始めとする自己出版は、米国を中心に爆発的に広まりました。

 2010~2013年にかけては、アマンダ・ホッキングジョン・ロック、そして、E・L・ジェイムズなど、自己出版デビューの作家たちが100万部を超える売り上げを記録し、大手出版社の有名作家に混じって、続々とベストセラーランク入りしました。

 E・L・ジェイムズの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(邦訳は早川書房)は、全世界で7000万部を売り上げたと言われます(ジェイムズはKDPでなく、オーストラリアのThe Writers Coffee Shopで出版)。

 米国では自己出版の、一種の「ゴールドラッシュ」のようなものが起きていたことがおわかりかと思います(詳細はこちら→Self-Publishing Movement Continues Strong Growth in U.S., Says Bowker)。

 日本では、2012年に藤井太洋さんが「Gene Mapper」(その後、「Gene Mapper -core-」と改題、商業版「Gene Mapper -full build-」が早川文庫として刊行)というSF作品でデビュー、続いて、梅原涼さんがサスペンス・スリラー「お前たちの中に鬼がいる」(同タイトルの商業版が主婦の友社から単行本として刊行)を出版しました。

 これらの先達に引き続いて注目されたのが、十一社(とおちのやしろ)作「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」という作品です(2013年3月KDP刊)。


「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」

 2014年1月、本書は加筆改訂の上、東京創元社から商業書籍として発刊されました。

 こうして自己出版が増えていくにつれて、これまでは考えなくてもよかった問題が表面化しつつあります。「自己出版作家はプロデビューした後、自己出版本と商業出版本をどのような戦略のもとに売っていくべきなのか」という課題です。

 より具体的に言うと、「プロデビュー後、自己出版本はそのまま売り続けるべきか、それとも絶版にすべきなのか」「それぞれの値段はどうするか」ということです。

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