電子書籍ビジネスの真相

スマホ文学は8ビットの夢を見るか--書評『お前たちの中に鬼がいる』

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2014年01月04日 10時54分

ポスト藤井太洋の最右翼がメジャーデビュー

 Amazonの自己出版プラットフォーム「Kindle Direct Publishing」から、また有望新人がデビューした。『お前たちの中に鬼がいる』(梅原涼著。紙版、電子版とも主婦の友社刊行)は、「クローズド・サークル(密室状況)」の愛好者には、たまらないサスペンスホラー小説だ。

『お前たちの中に鬼がいる』
『お前たちの中に鬼がいる』

 2012年、同じくKDPなどから『Gene Mapper』(現在は、『Gene Mapper -core-』と改題)で自己出版デビューした藤井太洋氏と比べると、そこには意外な共通点と相違点も浮かぶ。

 印刷術が近代文学を、携帯電話がケータイ小説を生み出したように、スマートデバイスが、新たなリアリズムを生み出しつつあるのだろうか?

 著者インタビューを踏まえて、自己出版が切り開きつつある、文学表現の新たな時代を展望してみた。

「鬼を殺せ」

 本作は、2012年12月、Kindle Storeで発売されたオリジナル小説。2013年春にかけて各所で話題になり、改稿・加筆の上、このたび主婦の友社から、紙版と電子版書籍が発売された。

 2012年10月25日、日本におけるKindle Store開設一周年を記念して行われたAmazonのプレス向けイベントでは、Kindle Storeの年間売り上げベスト100に入った自己出版本として、『Gene Mapper』と並んで紹介された(なお、商業出版版の刊行にともない、自己出版版は絶版になっている)。

 作品の概要を説明しよう。高校教師の須永彰は、目を覚ますと、見知らぬ地下室にいた。地下室には5つの部屋があり、それぞれの部屋には、女性が、鎖につながれている。

 そのうちの1つに入ってみた須永は、突然暴行を受ける。かろうじて難を逃れ、地上に出ると、監禁されていたのは、3階建てアパートの地下室だった。周囲は、先の見えない暗い森だ。

 森へ一歩踏み出すと、須永は、元いた地下室へと、一瞬にして戻されてしまう。しかも、今度は部屋の中で、鎖につながれている。

 地上のアパートには、それぞれに違った方法で殺害された6つの他殺体と、2つの自殺体が残されている。各階は「年代」と対応しており、部屋には、ビデオテープやMDといった、各年代を象徴するような文物が置かれている。

 そしてなぜか3階にだけ、各部屋にゲーム機が置かれている。

 監禁されていた女性の1人によれば、この空間は、一定の「ルール」によって支配されているという。

 例えば、森に足を踏み入れたり一定時間が経過したりすると、監禁された人間は「リセット」され、任意の部屋に転送される。6人のうち1人だけが外に、残り5人は部屋の中に、鎖でつながれた状態で送られる。

 部屋のゲーム機の電源を入れると、画面には、こんなメッセージが表示された。

「お前たちの中に鬼がいる。このゲームをクリアするためには、鬼を殺さなくてはならない……」

 「鬼」とは何か? 6人は、なぜここへ連れてこられたのか? そして彼らは、果たして脱出できるのか……?

 6人は時に協力し、時には対立しながらも脱出への道を探るが、そうこうしているうちに事態は錯綜し、疑心暗鬼が生まれ、誰が本当の敵なのか、味方なのか、分からなくなっていく――。

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