最近ニュースのキーワードとして度々登場する「3Dプリンタ」。3Dプリンタはなぜ注目されているのか、私たちは3Dプリンタで何ができるのかを解説する。
本当に“魔法の機械”か?--知っておきたい3Dプリンタの基礎知識(後編)はこちらから3Dプリンタとは、仮想で作られた3Dの物体を現実の物体にするもの、つまりPCの3Dモデリングソフトで作ったデータ上でしかない物体を本物にしてくれる機械だ。もちろん、3Dプリンタの性能や物理的な制約はあるものの、基本的にはどんなモデリングデータでも実物の立体として作成できる。
そのため、今まで職人が手間暇掛けて作るようなものや工場で大量生産するようなものでも、3Dプリンタとその材料、PC、3Dデータさえあれば誰でも手軽に同じようなものを作り出せるというわけだ。
また、3Dプリント用の3Dデータは写真データのようにネットやメール等で手軽に配布できる。これゆえに今までの物づくりではなかった可能性を広げつつも、思いもよらぬ問題が出てきている。最近では、銃を自作するというケースや、3Dプリント可能な自分の性器のデータを配布した女性が逮捕されたニュースが話題となった。これらは全て3Dプリンタ自体が問題というよりも、不特定多数に3Dプリント用のデータを手軽に配布できるという部分が根幹にある。
これだけ聞くと、3Dプリンタは何でも作れる魔法の機械で、悪用されると社会不安を招くのではないかと思うかもしれない。こうした誤解があるからこそニュースになるのだ。
しかし、実際にはそうではない。3Dプリンタは刃物のような存在だ。刃物は料理や工作など人間社会に必須の道具だが、用途に合わせて種類も多く、使いこなしにはある程度の訓練が必要で、悪用されると人を傷つけることがある。
3Dプリンタは今のところ一部のユーザーだけのものなので、目新しさも手伝ってニュースとなるが、そのうち今の家庭用インクジェットプリンタのような身近な存在になってくるだろう。では3Dプリンタとはどんなものなのか?具体的に紐解いてみたい。
「3Dプリンタ」といってもさまざまな方式があり、かなり幅の広いジャンルだ。機械の価格は家庭用の10万円前後からプロ用の5000万円前後まであり、使用する材料は、樹脂やアクリル、石膏から砂糖といったものまである。代表的な方式を簡単にまとめると以下のようになる。精度や材料は3Dプリンタの機械によっても異なるので、大まかな目安と考えてほしい。
方式 | 材料 | 色 | 造型物体の精度 | 用途 | 機械の価格 |
---|---|---|---|---|---|
熱溶解積層 | ABS/PLA樹脂 | 単色 | 0.1mm前後 | 家庭用小物 | 10万円前後 |
光造形 | 樹脂 | 単色 | 0.03mm前後 | 工業製品の試作/医療/ホビー | 100~700万円前後 |
粉末固着 | 石膏/樹脂/砂糖 | 単色/フルカラー | 0.1mm前後 | 建築模型/工業製品の試作 | 500~5000万円前後 |
粉末焼結 | 金属/ナイロン | 単色 | 0.05mm前後 | 工業製品の試作/工業用部品/製造用の抜き型 | 4000~1億円前後 |
インクジェット | 樹脂 | 単色/フルカラー | 0.02mm前後 | 工業製品の試作/医療/ホビー | 2500~5000万円前後 |
切削加工 | 木材/石膏/樹脂 | 単色 | 0.03mm前後 | 工業製品の試作/医療/ホビー | 30~80万円前後 |
熱熔解積層方式は、200度まで熱したパスタ状の細い樹脂を任意の形に積み上げて形を作る。光造型は、光を当てると凝固する液体状の材料にピンポイントで光を当てて造型する。粉末固着は、石膏の粉末など微細な粉末を水などを接着材にし振りかけて固めていく。ユニークなものでは、材料に砂糖を使うものも登場している。粉末焼結は、同じく材料は粉末だが任意の形に固める際にレーザーを当てて高熱を使う。インクジェットは、射出すると凝固するインクを吹き付けて、パイのように薄い層をいくつも重ねて作る。ちなみに、インクジェット方式では、印刷した紙を何百枚も重ねて立体を作る方式もある。切削加工は材料から形を削り出す方式。ローランド社の「MODELA」などが一般的に有名だ。
この中で家庭用として、量販店などで一般的に売られているのが熱溶解方式だ。他の方式は工業製品の試作や建築模型、医療用途などプロ用途の機械であり、機械を購入する予算はもちろん、ある程度広い設置場所や使いこなすには専門の知識が必要だ。ただ、光造形に関しては、今後の低価格化が進むことで一般化する可能性がある。
3Dプリンター自体は1980年代からあるものの、最近ニュースとして話題になるようになった理由は、熱溶解方式の低価格化と製品ラインアップが増えているためだ。また、3Dモデリングソフトの発達や3Dプリントを行ってくれる業者の増加など、今まで敷居の高かった3Dプリントが手軽に利用できるようになったのも要因として挙げられる。
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