昨今注目を集めている3Dプリンタ。企業の製品開発における期間短縮やコストの低減、また医療分野では特に再生医療の分野での活用が期待されている。さらに、10万円を切る3Dプリンタが登場しはじめ、家電量販店での取扱いも始まるなど個人向けの普及も見込まれている。
3Dプリンタは国民の生活を豊かにするために便利な物である一方、違法行為や犯罪も容易に実現可能なものにしてしまう側面も否定できない。今後、3Dプリンタを活用するにあたって、法的にどのような点に留意すべきか。弁護士ドットコムの代表を務める元榮太一郎弁護士に聞いた。
3Dプリンタで試したくなる事例として、マンガやアニメ等のキャラクターの立体物が考えられる。これについて注意すべきなのが知的財産権だ。
例えば、マンガやアニメなどのキャラクターの立体物を作成する場面を考えてみましょう。一般的に、マンガやアニメに出てきたキャラクターには著作権という権利が発生していて、著作権者以外は、このキャラクターを無断で使うことはできません。そのため、このようなキャラクターのデータを入手して、著作権者に無断で3Dプリンタで立体物を作ろうとすれば、著作権を侵害するものとして違法ということになります。
また、この著作権という権利以外にも、商標として登録されているもの(不二家のペコちゃん、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースなど)を、当該商標と同一または類似した商品やサービスに使用する目的で無断で製造した場合には、商標権侵害ということにもなります。
そのほかにも、製造したもののデザインが、意匠登録を受けているデザインと同一または類似しているということになれば、これを販売目的のため、無断で製造販売した場合は、意匠権侵害ということにもなります。
もし知的財産権侵害となった場合には、権利者から損害賠償を請求されたり、犯罪とみなされ刑罰を課されることもあるとしている(10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、あるいはその両方)。ただし、3Dプリンタを利用してキャラクターの立体を製造した場合であっても、それがあくまで自分の部屋で鑑賞するなどの私的に利用する目的にすぎなければ、無断で作っていても著作権侵害や商標権侵害、意匠権侵害になることはないとしている。
それ以上のこと、例えばインターネットで製造したものを公表するなどということになれば、私的な利用とは言えずに、著作権侵害となってしまう可能性があります。あくまで、自分で楽しむだけ、というのであれば、このような問題は生じません。作ってみたいというのであれば、私的利用の範囲内でのみ使うようにしましょう。
続いて、キャラクターではなく有名人や実際の人物を立体で作る場合。この場合は肖像権やプライバシー権といった権利との関係で問題になると指摘する。
肖像権というのは、自分の容ぼうや姿態についての権利のことをいいます。そして、無断で写真撮影をしたり、絵画や彫刻を作ってしまうと、この肖像権侵害やプライバシー権侵害ということになる可能性があり、損害賠償を請求されてしまうおそれが出てきます。そのため、実在の人物のフィギュアなどの立体を作る場合にも、無断で作ることは控えなければいけません。
そのほかでは、どのような点に留意すべきかにも回答いただいた。
まず、最近話題になった銃です。法律上、銃というのは、簡単に言えば、弾丸を発射することができて、殺傷能力のあるものをいいます。このような要件を満たすものであれば銃に当たるので、3Dプリンタで銃を作ってしまうと、銃刀法違反や武器等製造法違反という犯罪になってしまいます。
また、身近にあるものとしては、通貨や印鑑を作ることも犯罪です。通貨を作ってしまうと通貨偽造罪という犯罪になって、無期懲役または3年以下の懲役という処罰になります。また、印鑑を作ってしまうと、私印偽造罪という犯罪になって、3年以下の懲役という処罰になります。そのほか、他人の鍵を勝手に複製することは犯罪になりませんが、その鍵を使って無断で他人の家に侵入したら、住居侵入罪ということになって、3年以下の懲役または10万円以下の罰金という処罰になってしまう可能性もあります。
もっとも現在は過渡期であり、さまざまなものを直接作ろうとしても、活用(あるいは悪用)できるような強度や精度が保てないというのが現実。その一方で金属粉末を使用する3Dプリンタが開発されるなど、進化の過程では一定の強度や精密さをほこる3Dプリンタが登場する可能性は否定できない。それを踏まえた上で、元榮弁護士はこうまとめている。
3Dプリンタという新しい技術が広まることで、それに伴う法的なリスクも増えていくことになります。ここで取り上げたものの中には、犯罪だとは思わず、つい好奇心から作ってしまいそうなものも含まれています。ただ、犯罪だとは思わなかったという場合でも、作ってしまった以上罪に問われる可能性は十分にあります。このような事態にならないためにも、「これは作ったら違法かもしれない」ということを察知できるように心がけるべきでしょう。
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