低価格のスマートフォンとSIMカードをセットで販売する「格安スマホ」がヒットしたことで、仮想移動体通信事業者(MVNO)の知名度が急上昇している。MVNOとは、携帯キャリアからモバイルネットワークを借りて独自のモバイル通信サービスを提供する事業者のことだ。
日本では、IIJや日本通信、NTTコミュニケーションズなど、インターネットサービスプロバイダを中心として多くの企業がMVNOに参入している。そこで、ここではMVNO市場の動向や各社の戦略、SIMロック解除義務化が与える影響などについて考えたい。
MVNOがこれだけ大きな注目を集めるようになった理由の1つは、サービスの提供スタイルが変化したことにある。以前のMVNOは、UQコミュニケーションズやワイモバイル(イー・モバイル)の回線を用いた、Wi-Fiルータによるデータ通信サービスを主体に提供していた。しかし、最近はスマートフォンでの利用をにらみ、ドコモの回線を借りてSIMの形でサービスを提供する事業者が増加。制約は多いものの月額料金は大手キャリアと比べ大幅に安くなることから、“格安でスマートフォンが使えるサービス”として注目されるようになったのだ。
そしてもう1つは、接続料の低廉化だ。ドコモが3月にMVNO向けのパケット接続料を最大で56.6%値下げすると発表するなど、キャリア側に支払う接続料が大幅に値下げされたことで、MVNO各社がより安価な料金を実現できるようになった。これにより参入する事業者が増え、多様なサービスや取り組みが生まれていることも、注目度の高まりに大きく影響しているだろう。
とはいえ、MVNOは基本的にSIMカード、つまり通信の部分しか提供していない。そのため、MVNOのサービスを利用するには、SIMフリーのスマートフォン、もしくはドコモの中古端末などを用意し、そこにMVNOのSIMカードを挿入。さらにモバイルネットワーク接続に必要なAPN(Access Point Name)を設定する必要があった。
だが、基本的に端末とサービスをセットで提供している日本では、SIMカードのみを提供するサービス自体がそもそも一般的ではなかったため、そうした行為はスマートフォンに詳しくなければ容易にできるものではない。それゆえいくら価格が安いといっても、MVNOのサービスを積極的に利用する人はかなり限られていたのである。
そうした状況に風穴を開けたのが、イオンが4月に発売した「イオンのスマートフォン」である。これは、MVNOの1つである日本通信の「スマホ電話SIM フリーData」と、LGエレクトロニクスのスマートフォン「NEXUS 4」をセットにして販売したものだ。
それぞれの商品は従来からあり、端末は型落ちモデル。また通信速度も追加料金を支払わなければ128kbpsと非常に低速だ。それでも、端末代込みで月額2980円という安さが、大手キャリアでは毎月7000円以上かかるスマートフォンの料金を敬遠し、乗り換えを拒んできた年配層主体のフィーチャーフォンユーザーの心をつかみ、1カ月で8000台の在庫を完売するほどのヒットとなったのだ。
イオンのスマートフォンが成功した理由は他にもある。1つはそれぞれ別々に販売されているSIMと端末を、既存キャリアのようにセットで販売したことで、顧客が理解しやすい商品構成にしたこと。そしてもう1つは、「090」「080」などの携帯電話番号を用いた音声通話に対応していたことである。性能面やサービスの充実度は低いものの、端末と回線がセットになっており、普通に電話ができるという安心感が、人気に大きく影響したといえるだろう。
このイオンのスマートフォンの成功が、「格安スマホ」としてメディアなどに大きく取り上げられたことから、MVNOと量販店による同様のセット販売が急増したのである。例えばビックカメラとIIJは、4月より音声通話が可能なSIMと、SIMフリーのスマートフォンのセット販売を開始するなど、格安スマホに向けた取り組みを積極化。また音声通話がIP電話の「ほぼスマホ」を提供していたビッグローブは、音声通話に対応したSIMと、LTEに対応したシャープのスマートフォン「SH90B」とのセットによる「BIGLOBEスマホ」を、直販を主体として7月から販売している。
また格安スマホの先駆けとなったイオンも、今度はビッグローブと組んで通信速度を最大14.4Mbpsにアップした新しい「イオンスマホ」の提供を開始。一方で、初代「イオンのスマートフォン」にSIMを提供していた日本通信は、新たにヨドバシカメラと組んで格安スマホのセット販売に乗り出しているほか、端末を提供したLGエレクトロニクスは、「BIGLOBEスマホ」の第2弾として、「G2 mini」を9月に提供することを発表。それぞれが格安スマホの市場開拓に向け、継続して力を入れていることが分かる。
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