「VAIO株式会社」が7月1日始動した。同日開催された記者会見を振り返りながら、復活のシナリオを“数値目標”と“本質+α”が目指す戦略の2つの視点から探る。
VAIO代表取締役社長の関取高行氏は、2015年度を目標に年間「30万台~35万台」の販売台数を目標にするという。この数値は、IDCの2013年PC出荷台数データに当てはめてみると国内PCシェアの2%、国内でのPanasonicやASUSのシェアに相当、つまり業界8位から10位を目指すことになる。2013年度比で、国内VAIOは45%、世界展開していたVAIO総生産台数の5%まで絞りこむということだ。
目標売上は公表されていない。しかし、2013年度のソニー決算資料を参考にすると大まかな売上目途が見えてくる。2013年度のPC販売実績は560万台、PC事業の売上は4182億円、つまりPC1台あたりの平均売価(販売会社への卸値含む)は7万4678円になる。この平均売価に30万台~35万台の販売目標を単純にかけると約240億円。新生VAIO株式会社の社員が240名なので、社員1人あたりちょうど1億円の売上を背負う計算だ(ソニー決算資料を当てはめた、筆者の仮定値)。
しかしこのターゲットで十分だろうか。2013年度、ソニーのPC事業営業損失は917億円PC事業の収束費用583億円を除くと334億円の営業損失だ。これを販売台数で割ると、1台あたり5964円の損失となる。言い換えると、ソニー製VAIOは顧客あたり、あと約6000円ずつ高く購入していたら、利益がでるビジネスモデルだった。その差額は、商品単価の8%相当だ。もちろん、1台あたり6000円コストダウンする方法もあっただろう、実現できればソニーはVAIOを手放さなかったに違いない。
では、新生VAIOの+αの付加価値にユーザーはいくら対価を払うだろうか。その答えを出す戦略、戦術を関取氏が「本質+α」という哲学で語った。
「本質+α」とは、(1)本質を追及する、(2)制約に縛られない、(3)VAIOのDNAを継承する──という3つのポイントに収れんさせるという。具体的には、組織、設計製造、商品、販路という4つのパートについて述べた。1つずつ振り返ってみよう。
ソニー時代は1000人、グローバルならもっと多くの人間が携わっていたVAIO事業を240人にスリム化した。まず組織を小さくすることで個の責任範囲を広げ、スピードとコミュニケーションをアップさせた上で、経営的に人件費をダウンさせた。
言葉でいうのは簡単だが、人には感情がある。4分の1にスリム化した組織の中でモチベーションを上げて働くことはチャレンジだ。筆者はVAIO社員に心からエールを送りたい。
少ない社員でも、シェアを保ち事業を継続することはもちろん可能だ。その例を見てみよう。IDCのPC販売シェアのデータ10位以下に相当する“Others(メジャーベンダー以外)”の販売数を確認頂きたい。合計116万台の販売数、VAIOの目標×3倍だ。具体的にはホワイトボックス系ベンダーなどから構成されるが、たとえばマウスコンピューターは社員数204名で、同じ長野県で生産を行っている。2013年度の純利益は、6億6770万円だ(PDF:2014年6月24日発表資料による)。PCビジネスは成熟期で厳しい経営環境だが、選択と集中によって生き残る道はある。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス