「VAIO株式会社」復活の可能性--「本質+α」哲学の具体策4つを検証 - (page 2)

2.設計製造

 安曇野で設計製造一体となったものづくり、“安曇野Finish”を目指す。関取氏は「一番最初の商品企画段階から設計、製造、企画、営業まで含めた全メンバーが最初の段階から参加することで高度なモノづく、すりあわせを行う」という。この取組は、PCづくりの上流工程で関係者一同の参加意識を持たせ、良い製品をつくりたいという関取氏の配慮だろう。風通しの良さが期待できる。

設計製造まで一体となったものづくりを目指す「安曇野FINISH」と呼ぶ
設計製造まで一体となったものづくりを目指す「安曇野FINISH」と呼ぶ

 また、ODMで生産された製品の最終出荷チェックを新たに行うという。冒頭に述べたように、VAIOの製造台数目標がわずか5%(2013年度比)になったことでODMへの影響力が下がり、品質低下が危惧される。しかし“安曇野Finish”でその不安が払拭され、品質向上につながるならばユーザーにとっては朗報だ。

 しかし実行するとなると難しいチャレンジだ。商品企画段階から全メンバーが参加するフローは、具体的に3年後の2017年を想像してみるとわかりやすい。設計製造部門は半年から1年後(2018年)を語る一方、サポートサービスは、3年前に販売された製品(2014年)の保守対応をしている。つまり後工程を担当する部門では、単純に参加する打合わせ回数が増えるか、初期企画段階で合意したことが“踏絵”となり、サポート終息まで付き合うという後ろ向きなマインドを持つリスクもあるのだ。ぜひ、事業立ち上げ時の前向きな哲学を持ち続けていただきたい。

3.商品

新生VAIOの第1弾、VAIO Pro 11/13、VAIO Fit 15E
新生VAIOの第1弾、VAIO Pro 11/13、VAIO Fit 15E

 次に「本質を突き詰めたPC、加えて一点突破の発想と審美眼を併せ持つ、それが愛着を持って長く使っていただけるVAIO」と関取氏は語った。VAIO Pro 11/13、VAIO Fit 15Eが新生VAIOの第1弾だ。

 まずは、市場投入スピードを優先してソニーからVAIOへリブランドした製品を用意したのは経営的にうなづける。製品開発には時間がかかるので、“商品屋”とよばれる商品部長たちの今後の「VAIO-DNA」「こだわり」に期待したい。

 話が横道にそれるが、1997年のVAIO誕生の時もそうだった。当時ソニーは、80年代の「MSXパソコン」、90年代に入っての「PalmTop」「Magic Link」を経て、パソコン市場再参入をVAIOで果たす。第1弾、97年6月にミニタワー型「PCV-T700MR」、ノートPC「PCG-707」「PCG-707」の3モデルをまずスピード優先で市場投入した。しかし3モデル合計でわずか月産4000台と少ない目標だった。5カ月遅れの97年11月、後に“銀パソブーム”の火付け役とされる、伝説のB5ノートPC「PCG-505」が月産1万台目標で発売された。※月産台数は97年のソニープレスリリースによる。

19997年11月発売のVAIO「PCG-505」※資料提供:ソニー広報センター
19997年11月発売のVAIO「PCG-505」※資料提供:ソニー広報センター

 当時、筆者が感じたPCG-505の本質+αは、直感的なデザインの良さとサイズ感、そして使いやすさ。たとえば、“こだわり”と感じるのは、本体厚13mmに幅12mmのモジュラージャック端子を装備させたことだ。構造上極限まで薄くさせ、ユーザーの利用シーン「公衆電話BOX内でモバイル接続する」に合わせた。当時薄さでは世界一ではなく(三菱電機「Pedion」が18mm)、尖ったマーケティングメッセージはなかったがPCG-505は携帯性に優れ、プライスパフォーマンスがよく、作業に最適だった。

 さて、新生VAIOの本質+αはどうなるのか、楽しみは尽きない。

4.販路

 「販路においても、事業規模に合わせ当面国内市場に絞りと集中をかける」と関取氏は語った。量販店で在庫が山積みされたような光景はみられない。ソニーマーケティングと販売総代理店契約を結び一般向けにはインターネット通販サイトのソニーストア、直営店舗のソニーストア(銀座、名古屋、大阪)、e-ソニーショップと、一部の量販店店頭で注文のみを受けるKIOSK販売を行う。

一般向け販路は、インターネット通販サイトソニーストア中心だ
一般向け販路は、インターネット通販サイトソニーストア中心だ

 いわゆる直販(正確にはソニーマーケティング経由の間販)にシフトしたのは、流通マージンをカットし、ユーザーに還元させようという戦略だ。さらにユーザーとのタッチポイントは拠点を絞りながらも設けることによって、実機の展示露出はある程度保つ戦術だ。

 法人モデルは、ディストリビューター4社(大塚商会、シネックスインフォテック、ソフトバンクコマース&サービス、ダイワボウ情報システム)と直販営業が対応する。この4社は法人向けPCに強い日本HPのPCのディストリビューターとほぼ共通になる。相違は1社で、日本HPはソフトバンクコマース&サービスではなくソフトバンクBBだ。法人や官公庁に強い販売チャンネルを持つディストリビューターがそろった。

 懸念点もある。VAIO Pro 11/13、VAIO Fit 15Eについては、モデルを絞ったことは合理的だが、法人モデルと個人モデルを共通にするリスクは残る。法人モデルはシステムへの導入検証などで、決定から購入まで“足が長い”のでモデルチェンジは頻繁に行えない。一方、個人向けモデルは3カ月~4カ月でモデルチェンジが必要だ。さらに法人モデルと個人モデルが共通では、直販やソニーストアウェブサイトで大胆な価格変更などができないことが危惧される。ほぼ同じ構成のVAIOが、ディストリビューターより、仮に安い価格でソニーストアで販売されたり、その逆も問題になったりする可能性が高いからだ。

関取社長(中央)、赤羽取締役副社長(左)、花里取締役執行役員(右)
関取社長(中央)、赤羽取締役副社長(左)、花里取締役執行役員(右)

 以上4つの組織、設計製造、商品、販路というパートから本質+αの哲学による戦略が見えた。“VAIO社員”を信じ結束し、製品価値(単価)を上げ、コストダウンをスピード感を持って同時に行うことと読み替えられるだろう。VAIOを送り出したソニーも明るい未来を信じてかつての仲間をサポートする。それはVAIO株式会社の資本5%を保有し、販売代理を行い、旧VAIOの収束費用360億円を含む800億円の損失(2014年度予想)を計上しながら旧VAIOの保守を継続するということからも読み取れる。

 新生VAIOが歩む道は厳しいだろうが、17年間かけて構築されたブランドを利用でき、支援する企業、ユーザーも多い。いまは海外展開が予定されていないが、世界にも根強いVAIOファンは多い。安曇野発の新生VAIOが再び世界へ旅立つ日を願ってコラムのまとめとしたい。

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