ビッグデータは「あなたに興味はない」--(2)事例から考える - (page 2)

クラウドホームネットワークが描く未来像

 金品による解決ケースが続いてしまったので、最後は利便性向上の観点から。ある大手家電メーカーが実際に構想を描いているクラウドホームネットワークサービスの事例だ。家庭内の各種家電をネットワークでつなぎ、その情報をクラウドに集積することで新たな付加価値を創造する、というのが構想の狙い。ここではもっともわかりやすい例として、冷蔵庫のクラウド連携を挙げる。

 簡単にいえば、冷蔵庫の中身をクラウドセンター側で把握し、その中身に応じた料理を提案する、というもの。サービス全体のコンセプトとして「しゃべる家電」があるため、冷蔵庫が「今日のお勧めメニューは○○です」と話しかけ、必要であればその情報をタブレットに伝えてレシピを表示することも可能だ。

 タブレットとの連携部分を掘り下げると、買い物に出かけた際に「いま冷蔵庫にないもの」を外出先で把握し、周辺店舗の特売情報などと結び付けることもできる。また、そのデータを店舗側、流通側が把握することができれば、効率的な商品流通・販売を実施することも可能となり、それに応じて商品の低価格化などの明確なメリットを受けられる。

 前ふたつの事例と比べると一気に未来的な話になったが、これは現実に構想として進められているものであり、決して夢物語ではない。そして、これこそがビッグデータ、パーソナルデータを活用した「理想的な社会」のひとつであり、政府が有識者会議を立ち上げてまで検討を進める将来像だ。

 メーカー側が考える最大の課題は、やはり「どのように消費者の理解を得るか」。冷蔵庫の中身をはじめ、家庭内のプライバシー情報を提供することに対する一般ユーザーの心理的抵抗感。はっきりした利便性を示していても抵抗感が生まれてしまう可能性を危惧している。それが売上高というはっきりした形で示されるメーカーが二の足を踏むのは当然だろう。

 やはり「ビッグデータ、パーソナルデータの取り扱いは一般消費者・ユーザーに害を与えるものではない」ことを、基盤作りとしてより明確にしていく必要がある。一方、実際にはすでに多くのユーザーが「いつのまにか」ビッグデータ提供を受け入れている現状もある。

人はどのタイミングで“抵抗感”を抱くのか

 ビッグデータやパーソナルデータの活用は、「豊かな国民生活」というあいまいなメリットではなく、明確なメリットをもたらす可能性を秘めている。一方、やはりプライバシー情報に近いものを提供することに対する心理的抵抗も働く。では、その抵抗感はどのようなタイミングで発生するものなのか。先ほど触れた大手ショッピングサイトの例について、より具体的に掘り下げてみる。

 40歳代男性、会社員(中間管理職)のケース。同僚の若手社員たちとカラオケに行った際に盛り上げようと、人気若手アイドルグループの楽曲CDを多数購入しようと決意した。しかし、近所のレコード屋は娘の友人たちがアルバイトしている。すべてが顔なじみというわけではないが、アイドルファンと噂されるのは自身のため、娘のためにも気がひける。

 そこでネットのショッピングサイトを活用し、顔を見られずにCDを入手することに成功した。おかげでサイトトップにはアイドル関連グッズがお勧め商品として並ぶことになり、それを見た妻からは軽く白い目で見られたが、若手社員とのカラオケでは盛り上げに成功した……。

 後半部分は蛇足だが、ポイントは「店舗購入ではなくネット購入を選んだ」ということ。店舗購入で発生が見込まれたプライバシー保護には成功したが、結果としてネット上に明確な足跡を残している。さらには関連グッズレコメンドのおまけまでついているが、これを鬱陶しいと感じないのであれば、この選択は個人にとって正解だったとなるだろう。

 これはあくまで事例として挙げたまでだが、このように「店舗での対面販売と比べてネットショッピングはプライバシーが保護される」と考えるユーザーは多いのではなかろうか。ここではアイドル楽曲CDとしたが、たとえばアダルトグッズなど対面で購入しづらいものに置き換えるとわかりやすい。

 実際には店舗販売以上の証拠を残しているにも関わらず、よりプライバシーが守られている印象を持つ心理的矛盾。「ビッグデータはあなた自身に興味がない」ことを、多くの一般ユーザーが心のどこかで理解しているのかもしれない。

 購入履歴を逆手にとって「このことを人にばらされたくなければ……」といった脅しが発生するのは、もはやビッグデータ活用とは何ら関係のない犯罪行為。実際、これに類する被害がネット上ほかで発生していることもビッグデータへの理解を阻害する要因と考えられるが、そうした犯罪被害とは異なる存在であることをより明確に伝えていくことが求められる。

 「まずは“あなたに興味がない”というビッグデータの性質を一般ユーザーに理解してもらうこと。かつ、事業者側は協力を願い出るにあたって適切なベネフィットを用意すること。それで納得・理解が得られなければ、一般ユーザー側の判断で情報提供の可否を決められるようにすること」と、日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部クラウドアプリケーションビジネス部部長の斎藤泰行氏は話す。

 あいまいな定義づけや活用議論をやめ、実運用に即した議論・方法論を進めていくことが、ビッグデータ/パーソナルデータ活用時代を迎えるための準備になるはずだ。

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