情報通信技術の発達にともない、その利活用が期待されるビッグデータやパーソナルデータ。政府の有識者検討会は、個人に結び付かないよう匿名化したパーソナルデータについて本人の同意なしに提供できるとする指針を含む新制度の大綱案をまとめ、事業者による利活用を促そうとしている。
一方、情報を提供する一般国民側に残る「もやもやした気持ち悪さ」は解消されないまま。これをいかに解消し、誰もが納得するビックデータ活用時代を迎えるか。今回は、さまざまな活用ケースを具体的に考えてみる。
現段階で最もうまくビッグデータを活用している事例のひとつが、国内最大手の某外資系ショッピングサイトであろう。過去の購入履歴やチェック履歴を分析し、そのユーザーに適した商品紹介をトップページに並べてくる。
一見すると極めて個人を特定したサービスに見えるが、あくまでビッグデータ集積にともない分析結果を反映させているだけであり、営業担当者が「この地域に住む何歳の男性であれば、この商品に興味を持つはず」と考えてページをデザインしているわけではない。ここに、前回示した「ビッグデータはあなた自身に興味がない」という理念と一致が見られる。
さて、個人でPCやモバイル端末からページを眺めているだけであれば、このサービスで「プライバシーが覗かれている」と意識するユーザーはほとんどいないだろう。ところが、友人に「ショッピングサイトのトップページを見せてほしい」と言われたらどうだろうか。さらに、サイト運営側が「あなたの購入情報を他社に売ります」と言い出したらどうだろう。気恥ずかしさ、そして気持ち悪さを覚えるユーザーは多いのではないだろうか。
友人に頼まれたケース、これは明らかに個人を特定したうえで興味を示しているということであり、明確なプライバシーの覗き見行為と言える。ところがサイト運営者の場合、「この商品を何人くらいが買っていて、その人はほかにもこんな商品を買っている」というワンオブゼムの情報を必要としているだけで、購入者個人について特段の興味はない。
どちらも気恥ずかしさ、気持ち悪さを覚えるのは同じだが、意図には明確な違いがある。一方、考えられる解決方法は似通っている。友人に「今日の飲み代おごるから見せて欲しい」と言われれば、即決とはいかないまでも考える余地はある。同様に「データ提供にご協力いただければ1万円分の商品券を贈呈します」と持ちかけられれば、やはり検討の価値ある議題となりえるはずだ。
商品の購入履歴は、極めてプライバシーに近い情報であり、取り扱いには相応のベネフィットが必要。「個人情報と切り離すから無許可で」を押し通すのは少々無理がある気がする。事業者側には慎重かつ明確なメリットを示した上で活用することをお勧めしたい。
デジタル化にともなう放送サービスの高度化が進む中、数年前から声高に叫ばれてきたのが「放送・通信の融合」という考え方だ。ここには放送局設備、制作設備面などにおける融合も多分に含まれているが、一般視聴者として気にすべきは「テレビとネットの融合」という出口の部分。これは、今まで放送局から一方通行だったものが、通信回線を通じて双方向になることを示す。
すなわち、視聴者がどんな番組をどれくらい見ているのか、実数に近い形で放送局側が把握できる可能性がある、ということ。事実、ある民放キー局は地方で実験的にこうした取り組みを行っているし、インターネットサービスも総合的に取り扱うケーブルテレビ事業者にもこうした「上り回線の活用」に関する実験サービスが始まりつつある。
この場合、適切なベネフィットをどう捉えるかが難しい。民放キー局の実証実験は社会貢献要素を大きく取り入れた活動であり、緊急災害発生時において「テレビがついていたか、否か」で倒壊家屋の救出作業の手助けとしたり、避難所の情報を個別に伝えたりすることがメイン。ビッグデータ収集・分析による番組制作への反映やターゲット広告ビジネスの展開は、あくまで平常時のシステム有効活用案にすぎない。
本来の目的である「緊急災害対応」部分に十分な納得が得られれば、テレビ視聴動向を提供することに心理的抵抗はないはず。だが、それだと「家にいてもテレビを必ずつけるわけではない」「情報は各種デジタル端末から得られる」といった層の理解は得にくい。現在、実証実験が行われているような地方の小さな自治体、かつ高齢者がひとりで住んでいることの多い地域では有効だろうが、都市部にそのままモデルを当てはめるのは無理がある。
放送局によるビッグデータの活用、これは「番組制作に反映」「ターゲット広告ビジネスを展開する」ことをむしろ前面に押し出し、協力者には番組グッズをプレゼント、が良いのではないかと思う。ケーブルテレビも同様で、こちらは契約料金の一部をサービスすればいい。
番組制作への反映やターゲット広告が「視聴者にもメリットがある」と考えるのは少々ナンセンスで、むしろ多くの視聴者が「どうせこちらの意見など反映しないだろう」と考えていることには留意すべきだ。はっきりしたメリットを示すことで、視聴者側も少年漫画雑誌のアンケート感覚でパーソナルデータ提供に協力してくれるようになるのではなかろうか。
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