著作物にあたらない情報の第2は「事実・データ」です。たとえば「昨年、交通事故の24時間以内死者は全国で何人いたか」といった客観的な事実。あれは著作物ではありません。なぜなら誰かが創作したものではなく、厳然とそこで起きたことだからです。ですから誰もそのデータを独占はできません。公開されたデータなら、基本的に誰でも自由に使えます。
ただし、気をつけないといけないのは、使っていいのはあくまで生の事実やデータであって、例えばそれを報じた雑誌記事の文章全体は著作物なのです。ですから、ノンフィクションをそのままなぞるようなTV番組や小説を作ると、しばしばトラブルになります。ノンフィクション作家の方は「私の作品全体を真似された」と主張し、こちらは「いや、あなたの作品は参考にしたが、あくまで生の事実だけを借りたのだ」という構図ですね。これまで何度も同種の裁判が起きています。
筆者が関わったものでは「弁護士のくず」事件というものがあります。人気漫画「弁護士のくず」で、一時期マスコミを賑わせたある実在の事件を題材に、それを発展させフィクション化してマンガにしたのですね。そうしたところ、その事件を伝えるノンフィクションを書いた方から、著作権などの侵害で訴えられたのです。
筆者はこの事件に、マンガ家および出版社の代理人として関わりました。なんとなく「弁護士のくず側の弁護士です」というのも複雑なことになっているなあ、と思ったりしました。争点はやはり、こちらは生の事実を参考にしただけだと主張し、先方はその事実の構成方法などの「創作的な表現」を借りられたと主張する、という構図でした。幸い最高裁まで3度、「生の事実などしか共通していない」旨の裁判所の判断を受けて、マンガ側の勝訴が確定しています。
さて次は、著作物にあたらない情報の第3です。著作物といえるためには、ある程度表現として形をとっている必要があります。ですから、具体的な表現の根底に流れる「着想やアイディア」は著作物としては守られません。これもよくトラブルになる点ですが、続きはまた次回に。
レビュー・テスト(2):著作物に含まれない情報を2種類挙げましょう。答えは本文中に!
1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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