オフショア開発拠点としての「ベトナム」の優位性--エボラブルアジア薛社長に聞く

 システムの開発や運用を海外事業者に委託する“オフショア開発”の拠点として知られるベトナムだが、中でも独自の「ラボ型」開発で急成長しているのがEvolable Asia(エボラブルアジア)だ。代表取締役社長の薛悠司氏に同社の戦略と展望、そして中国やAPAC諸国と比較してのベトナムの優位性、将来性について聞いた。


エボラブルアジア代表取締役社長の薛悠司氏。ベトナムオフィスにて

「ラボ型」による差別化が奏功

――オフショア開発の中でも特に「ラボ型」を採用されていますね。

 弊社は、以前のオフショア開発の主流であった顧客からの「案件受託型」が及ぼすいくつかの弊害を解決する手段として、顧客のプロジェクトマネジャーと一体となる専任の開発者チームを編成するラボ型を提供してきました。

 案件受託型の弊害の1つは、案件数が常に一定ではなく、また炎上案件に備えるため余剰人材を抱えなければならない、もしくは一部を外注せざるを得ないこと。そのため顧客へのコストが余分にかかってしまうのです。設立当時、オフショア開発を行っていた他社は、エンジニア1人あたりの月額を25~30万円ほどに設定していました(2012年当時。現在は30~35万円程度)。これでは、日本人エンジニアの2分の1から、3分の1程度にしか下がらず、高すぎると考えたのです。

 2つ目の弊害は、品質が安定しないことです。案件受託型の場合、品質責任が外注先に完全に委託されるので、顧客側のプロジェクトに対する関心度が低くなり、開発の過程についてはブラックボックスで見えにくくなります。しかし、ベトナムには職務経験が2~5年のエンジニアが多くベテランが少ないため、アプリ開発は得意だけれどウェブサイトの制作は苦手など、どうしても専門性が偏ってしまいます。こうした場合に成果物の品質は安定しません。

――こうした弊害をラボ型が解決するのはなぜでしょうか。

 ラボ型の場合、顧客専任でチームを編成するため余剰人材を抱えることがなく価格を安くすることができます。弊社の場合は1人の月額は16万円ほどです。ただし、今は円安で20万円ほどに上がっていますが。また、専任チームであるため顧客が求めるスキルの習得も速い。さらに、顧客側のマネジャーがプロジェクトの責任者であるため関心度が上がり成功確率も上がります。ラボ型は案件受託型の弊害をすべて解決できるのではないかと思っています。

「価格」「コスパ」で優位 対中国・APAC諸国

――オフショア開発の拠点として、ベトナムのアジアにおける優位性はどこにありますか。

 オフショア開発市場としてのアジアの周辺国に対するベトナムの優位性は、「絶対的価格」と「コストパフォーマンス」の大きく2つの軸で語ることができます。

  • 開発をしているベトナム人のエンジニアたち

 まず、絶対的価格について。今のオフショア開発のほとんどは日本語を介して行われることが多く、英語が使われることがまだまだ少ない状況です。そうなると、自然と選択肢は中国かベトナムに限られてくるのですが、絶対的な価格ではベトナムは中国よりも安い。半分程度の価格です。ベトナムよりも安い国としてミャンマーなどが挙げられますが、この国は電気代や通信費、オフィス賃料などが高騰しています。一方でエンジニアが豊富にいるかというとそうではありません。

 続いて、コストパフォーマンスについて。中国は国内の市場が大きいため、一級のエンジニアが日本向けの開発に携わるかというと現実的にはあまりないでしょう。他国ではインドも多くのエンジニアを抱えていますが、彼らは英語を話すことができるため一級のエンジニアたちは米国で働きたいと考えるはずです。

――ベトナムであれば優秀な人材を獲得できると。

 ベトナムの現在のソフトウェア開発の輸出先の60%は日本です。日本はベトナムにとって重要な市場であり、日本語を理解できるエンジニアも多く親和性が高い。ですから、トップ5%に属するような一級のエンジニアを日本企業でも採用できることのメリットは大きいと思っています。

 さらに、ベトナムは国としてITと対日本の分野に積極的に投資しています。国内250校近くの大学に情報系の学部を新設し、さらに次の学期から国内3000校の高校で日本語教育を標準化していく方針です。日本企業が今後数年でよりオフショア開発に取り組むようになったとき、ベトナムのエンジニアたちはより高度化し、開発の上流工程や、習得の難しい言語なども担っていけるようになると思っています。

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