コールセンターが強みのベトナム旅行予約サイト「Mytour.vn」--リクルート出資で売上5倍に

 この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。今回の舞台はベトナムだ。

 ベトナムでは休日が少ないこともあり、国民の旅行の行き先の約90%は国内と言われている。祝日は年間13日(日本は17日)。旧正月の一週間を除けば6日ほどしかない。仕事の休みは80日ほど(日本は112日)。今後さらに国が発展し、休日が増えれば状況も変わるかもしれないが、海外でゆっくりするのにはもう少し休日が必要だろう。

 旅行の予約は、旅行代理店の店舗を訪れてパッケージ予約をする、もしくはホテルに直接電話して予約することが多い。現在のネット普及率は40%程なので、都市部で暮らす人はウェブで旅行に関する情報収集をしているかもしれないが、依然として実店舗で予約する人の方が多い。

 ベトナムが今後先進国の歴史をたどるならば、ますます旅行市場のIT化が進んでいくはずだが、それに先んじてサービスを展開しているのが「Mytour.vn」だ。2011年12月にサービスを開始した、国内旅行に特化した旅行の予約サイトである。


「Mytour.vn」のトップページ

 実はこのMytour.vn、2012年11月にリクルートホールディングス(リクルート)が出資している。元々ベトナム最大手のECサイト「Vatgia.com」を運営するVietnam Price Joint Stock Companyの一事業として運営されていたが、リクルートとジョイントベンチャーという形で運営することになったのだ。

 リクルートの伊達寛氏によれば、ベトナムの旅行市場は1990年代後半から2000年の頃の日本に似ているという。一次、二次、三次産業が育ち、衣食住が足りてようやく余暇産業が発展し始めてきた。今の日本のように日帰りで気軽に旅行に行くのではなく、ある程度まとまった休みとお金を使って、しっかりと計画を立てた上で行く。日本も昔そうだったかもしれないが、彼らにとって旅行は一大イベントなのだという。

 ベトナムはASEAN第3位となる約8784万人の人口を誇りながら、平均年齢は27.4歳と非常に若く、GDPは年率6%程度の成長を続けている。ネット普及率は2015年に人口の60%程度まで急伸すると予測され、国内旅行市場も今後拡大が期待される。こうした背景から、リクルートはベトナムのオンライン旅行予約事業が成長すると見込んでいるのだ。

コールセンターはまるで旅行コンシェルジュ

 Mytour.vnの特徴は、「コールセンター」の存在を打ち出していることだ。ベトナムの旅行者の多くはオンラインでモノを購買することに慣れておらず、ネットで決済まで完結させることに抵抗を感じる傾向にある。さらに予約あたりの単価は150ドルと、日本と比べても決して安いわけではない。現地採用の給与水準が大卒で月200ドル、マネージャ職で月1000ドルであるから、彼らにとっては大きな買い物なのだ。したがって、コールセンターで人を介して対応し、安心感と高い買い物ならではの充実感を提供することが重要と考えている。

 コールセンターのオペレーターたちの対応は、まるでコンシェルジュのようだ。ベトナムの旅行者の多くは、たとえば「海が見えるホテルに泊まりたい」など、希望するホテルのイメージは持っているがネットで検索することには慣れていない。そのためオペレーターは旅行客から電話でさまざまな相談を受ける。

  • リクルートホールディングス アジア販促事業推進室室長の伊達寛氏(左)とリクルートから出向しているMytour Viet Nam Vice Directorの向井悠紀子氏(右)。ベトナム・ホーチミンにて

 オペレーターは相手の希望に沿ってMytour.vnで検索し、さらに自社のデータベースにある情報を元に評判のいいホテルをオススメする。ちなみにこのデータベースにある情報は、担当のオペレーターが、旅行者がホテルにチェックインしたあとに本人に直接電話をかけ、ホテルに関する評価をヒアリングすることで集めているという。

 コールセンターは20人体制で運営されており、週に多くて3000コール。これに99%の応答率で対応している。その丁寧な対応により、予約者の半数がこのコールセンター経由で予約しており、旅行客からオペレーターに指名で電話がかかってくることもあるそうだ。また利用者の翌年のリピート率も50%と高い。

 ちなみに、これは日本ではあまり考えられないことだが、電話は休日よりもむしろ平日にかかってくるそうだ。自宅にPCがない人が多いため、会社のPCでホテルを検索して会社から電話をかけてくる人が多いのだとか。日本なら夜の時間帯が予約のピークタイムだが、ベトナムでは会社の営業時間内がピークなのだそうだ。

 オペレーターの品質管理にも余念がない。すべての電話を録音し、ランダムにピックアップした会話を聞いて評価しているそうだ。会話に関するいくつかのチェック項目が設けられているが、このテストに合格できなければフロントから一度下ろして再度トレーニングするなどして品質を担保しているという。

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