3月25日に開幕した、ウェアラブルテクノロジのカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2014」。主催企業の1社である朝日新聞社のメディアラボ プロデューサーの竹原大祐氏が「未来メディアコンセプト」と題した基調講演を行った。
イベントは「ウェアラブルは、世界を変えるか。」をテーマに掲げた。竹原氏が基調講演の中で語った趣旨も、テクノロジで人々のライフスタイルが変革する中、メディアはジャーナリズムや情報をどのように伝え、どう表現するのか。未来のメディアのあり方を最新のウェアラブル市場の動向に絡めて提言するものだった。
竹原氏は、朝日新聞社が1998年10月に「ウェアラブルシンポジウム2010」と題して東京で開催した当時の状況を次のように振り返った。
「1998年当時、ウェアラブルの衣装を身にまとったファッションショーを催したが、ウェアラブルはイマジネーションの世界。それは今でいうところの、まさにきゃりーぱみゅぱみゅのような世界観で、ワクワクする感じは時代を超えても変わらない。そして、その当時の記事を見てみると、実は指輪型、腕時計型、眼鏡型が来るという風にすでに今の形を予言したものだった」
当時と現在との違いを次のように語った。
「まずは、ネットワークとOS。特に分散型のオープンOSやすごく軽いOSが出てきた。OSの違いは大きい。そしてデザイン。クラウドという存在も大きい。インフラが、これだけいろいろなところにつながっていくという予言はなかった。それからSNSの登場。ハードウェアがこれだけ小型化され、手に入りやすい価格にどんどん下がってきていること。さらに今注目されているのが、ビッグデータの存在。これは、私たちのライフスタイルにあわせて、どのような形で情報発信ができるかという、いわゆるレコメンドの機能。この要素は、メディアとはかなり密接な関係にあるのではないかとわれわれメディアラボでは考えている」
竹原氏が紹介した調査会社の予測によると、ウェアラブルコンピューティング市場は、2014年に8000億円、今後3年間では5兆円規模の拡大が見込まれているという。一方で、次のような問題点を指摘する。
「個人情報、監視社会、プライバシーはどうするのかといった声もある。コンピュータがすべてウイルスに侵された場合の対処や情報流出の問題は、ビッグデータとともに常にある。ウェアラブルを身に着けて電車に乗った際のマナーはどうするのか、法整備の問題も含めて多くの課題を持っている」
しかし、テクノロジの進化とは常に表裏一体のこうした問題に対して、竹原氏はポジティブな姿勢を見せる。「このような問題を包括しつつも、そこからさらに飛び出していくのがテクノロジの世界の世の常。そこを商機としてビジネスを作って次へ進んでいくという考えもある」と述べ、その一例として“ウェラブルプロテクト”を概念とするビジネスの方向性の考え方を示した。
次に朝日新聞社のメディアラボが現在開発に取り組む新しいメディアコンセプト“朝日新聞AIR”を紹介。これは「Google Glass」を活用し、バーチャルな空間で認識したものをセンシングし、内在する情報を取り出そうという新しいタイプのメディアアプリケーションだ。
例えば、高校野球の新聞記事にフォーカスすると、誌面では掲載されていない写真や音声、動画などさまざまなコンテンツを次々と引き出すことができる。さらに冬季五輪のスキー競技のジャンプ台を360度見られるパノラマ写真で提供するなど、読者にさまざまな疑似体験を提供できるという。
こうした取り組みについて竹原氏は「疑似体験によって社会をより良くすることができるのではないか。例えば、この技術を使って戦場に立ったなら私たちは戦争をするでしょうか。戦場にいる子供たちを助けることなど、実はテクノロジの世界にもできることはあるのではないか」とその意義を強調した。
馬からクルマに取って代わった時代に当時のドイツの皇帝が「自動車は流行にすぎない」と語った例を取り上げ、「ウェアラブルは単なる流行ではない。馬とクルマの関係がそうであったように、必ずしも必要ではないものであっても、それ以上に進化するものはある。1998年当時、ウェアラブルは“フューチャーイマジネーション”だったが、私たちはもう、それを実現してすでに“フューチャークリエイティブ”」とウェアラブルの可能性に期待を込め、講演を締めくくった。
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