大企業はスタートアップを育成できるのか--「KDDI ∞ Labo」の手応え

 米国の音楽祭典であるサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)の開催期間中に恒例となる興味深いランキングが発表された。「The 2013 Seed Accelerator Ranking」と題されたこのリストには、米国で影響力があるとされるシードアクセラレーターが、その支援先企業数や評価額などで評価され、金、銀、銅の順にランク付けされて並んでいる。

 そして、このトップに輝くのがY-Combinatorだ。2005年に現れた“施設を持たない”スタートアップ支援プログラムは、100億ドルを超える評価額となった「Dropbox」を筆頭に「Airbnb」「Heroku」「Stripe」など、これまでに600以上のスタートアップを3カ月ごとの“バッチ”と呼ばれるサイクルで生み出していった。これが日本に飛び火したのが2010年4月、そして火蓋を切ったのがOpen Network Labだった。

 それから約4年、国内でいくつか誕生したシードアクセラレーターは一時的なブームに終わらず、起業家、企業育成に必要なサイクルの一環になりつつある。詳細をすべて把握することは難しいが、国内では大小合わせ、10弱のプログラムが走っている。この中でも異彩を放つのが通信キャリア主導のプログラムだろう。

 KDDIはアクセラレーションプログラムの「KDDI ∞ Labo」や、大型調達を期待できるファンド「KDDI Open Innovation Fund(KOIF)」を運用、さらに先日のニュースアプリ「Gunosy」のようなKDDI本体の出資も可能という、極めて複合的な企業育成の手法を持っている。彼らによって出資を受けたグリーやコロプラといった企業はその後大きく花開くことになる。

 一方で開始当初、本当にシード企業を彼らのような大企業が育成できるのか、という疑問もあった。国内キャリア主導のアクセラレーションはこの数年で何を経験し、今後どのような企業育成の未来を考えるのか。KDDI ∞ Laboのラボ長である江幡智広氏に、キャリアだからこそできる企業育成の姿について聞いた。


KDDI ∞ Laboのラボ長である江幡智広氏(左)とLaboの企画・推進を担当する石井亮平氏(右)

――第2期生の活動が始まったばかりの2012年5月に当時のラボ長であった塚田俊文氏にインタビューした際には、まだ暗中模索といった様子でしたが状況は変わりましたか。

 まだ模索中ですね。ただ、第4期ぐらいのタイミングから、KDDIとしてきちんと起業家を方向づけることや、「少なくとも3カ月でアウトプットを出す」というところまでは実感を持てるようになりました。

――他のファンドや支援系企業とは違った立ち位置でしたからね。新しい取り組みなのにさらに勝手がわからない。

 最初は本当に支援できているのかと自問自答していました。ただ、オフィススペースやクラウド、ファシリテーション、端末を自由に使って検証できる点は、キャリアという立ち位置を最大限活用して、ゆったり構えてできたことのひとつかもしれません。プログラムを卒業する時に話を聞くと皆さんから「こんなことまでやってもらえると思っていませんでした。一切お金もかかっていませんし」と言われるので、一定の成果はあったのかなと(笑)。

――他のプログラムと具体的な違いを意識した点はありましたか。

 他のプログラムはやはり(投資実績として)それなりの形にしていかないといけないので、投資フォーカスを考えないといけません。ドコモやKDDIはそこまで強く意識しなくてもいいじゃないのと考えていて、そこが大きな違いだったかもしれません。さらにそれを隠すのではなく、ちゃんと世の中に伝えながらやっていくのはいいよねと。

 また、そういった部分が評価されていることを分かった上で、支援がどうあるべきかを試行錯誤しました。そもそも支援先企業が本当にこの方向性で事業をするのかという、根本的な視点から入ることもありますし、どうやってこれをエクスパンションさせるかというマーケティングの話もあります。もっというと「これって事業パートナーがいなかったらできないよね。じゃあ、そこを探すところからやりましょう」ということもありました。そういった深いところまでちゃんと僕らが関わって、結果3カ月後にここまで出来ましたよね、ということを実感できたのがこの1年だったと思っています。

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