大企業はスタートアップを育成できるのか--「KDDI ∞ Labo」の手応え - (page 3)

異業種と作る新たなエコシステム

 アクセラレーターが企業にプログラムをOEMする例はTechStarsが知られている。先日発表されたディズニーとの共同プログラムの発表は記憶に新しい。

 しかし、この話は少し違う。大げさかもしれないが、“株式会社「日本」の新規事業部をKDDIが担う”といったイメージだ。安定した運営を続けながらも、新しい動きに鈍くならざるをえなくなった企業体とプログラムを一緒に運営し、起業育成を通じて新しい風を吹き込む。そんな狙いがあるのだろう。

 ここで、6期生までのプログラムに参加したスタートアップを振り返ってみよう。毎回5社ほどが採択され、現在は約20社が支援先に並ぶ。ピックアップすると1期生でもあり、スタートアップして約1年半でゲーム開発会社に売却した「ソーシャルランチ」や、3期生でプレイガイドタイプのチケット販売をしている「tixee」、オンライン学習の「mana.bo」はKDDIグループ以外の資金調達に成功している。

 また、他のアクセラレーションプログラムとの掛け持ち組もいる。Open Network Labのプログラムにも参加していたマイクロギフトの「giftee」や、MOVIDA JAPANのプログラムにも参加していた「Creatty」や「U-NOTE」といった面々だ。gifteeはその後、KDDI本体からの出資も受けて継続的な協力関係を築いている。

――最近はハードウェアアクセラレータ「HAXLR8R(ハクセラレーター)」など、育成環境にもハード系の話題が入ってきています。こちらの方向にご興味は。

 この質問、最近多いんですよね(笑)。もちろんなくはないのですが、ハードウェアって1つ1つの商品でいいなと思うものがあっても、それをどうやって継続的に出し続けられるかが課題ですよね。たとえば「Jawbone」などはうまくやってるじゃないですか。いくつか見ていると1回当たったものの、2個めの商品が出てこないぞみたいなところは結構ありますよね。

――この5期までに一番思い出に残ったチームは。

 ある意味、メンターが“ぶっこんだな”というのは「PEDALRest(ペダレスト)」(第5期の自転車創業が提供する遊休地を活用して駐輪場問題を解決するサービス)です。ビジネスの可能性は全然高くない、けれども課題があるのは言っている通りだと。

 ここについたメンターは本当に個人や会社のネットワーク、たとえばKDDIの持ってる空き地はないかなど、ありとあらゆるネットワークを使ったんですよ。KDDIの新宿のスペースを借りにいったら、都庁から連絡がきて説明に行ったり(笑)。直近で思い出深いのはそこですね。


「PEDALRest(ペダレスト)」

――社員メンターへの影響というのは、当初から挙げられていたシナジーのひとつでした。

 メンターになった社員の中から、またやりたいと言ってくれるモチベーションの高いメンバーが何人も出てきています。それに、このメンタリングで得たものを「もう少しこれに近い領域でやりたいので新しい事業を検討する業務をしたい」みたいな声が聞こえ始めているのはいいことだなと。

――メンターの人選はどうしているのでしょう。

 主に(1)本部の部長クラスから1人推薦してもらう、(2)前期のメンターが誰かを推薦する、(3)僕らが名指しで選ぶの3つですね。あとは立候補。この4つの方法で全体の中から5人を決めています。エントリー数は毎回10~20人ですね。

――選ばれた社員の反応は。

 2回目もやりたいと言ってきたメンバー全員が、最初からそこまでの気持ちを持っていたかというとそうじゃないと思います。まずやってみて、ベンチャーの方々のマインドに触れて、自分よりもこんなに考えている人たちがいるんだということに気づく。そうした経験から、すぐに起業をしたいというモチベーションにはならなくても、日々の業務でもっとできることがあるよねという、発想の転換ができる世界が生まれるのではないでしょうか。

――最後に江幡さんの考えるこれからの起業エコシステムのあり方について教えて下さい。

 先ほどお話しましたが、もう少し活動範囲を広げて異業種の方々との関わりを増やしたいと考えています。僕らの自己満足ではなくて、大企業の中にもそう考えている人がいることはわかっています。その方々と僕らが一緒になることで、ベンチャーの支援の仕方が変わるはずなんです。ベンチャーにとっても僕らとだけじゃできなかったことや、想像していなかったようなことが起こると思います。そのエコシステムというか、輪を広げていきたいですね。

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