だが、そもそもデータを取るというのは何のためなのか。それは「顧客理解のため」であると泉氏は注意を促す。
「すべての案件でデータ測定が可能なんてことはあり得ない。テレビCMの効果を100%データで説明することは、少なくとも今ある技術ではたぶんできない。ところが、できないからテレビCMには意味がないとするのはデータ原理主義の言い分。データにできること、できないことを判断し、何をデータにやらせるのか冷静に考えるべき」
「ビッグデータ時代に生き残るマーケターの条件」とは何か、というテーマの講演だが、泉氏は「ビッグデータ時代だからといって、マーケターがやらなければいけないことが実は劇的に変わったわけではない」と話す。マーケターの仕事は、企業のサービスや商品を1人でも多く知ってもらって、1人でも多く買ってもらう、というのが目的であり、その部分は昔から変わっていない。
かつて「AISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)」という購買行動のプロセスモデルは、現在も基本的に適用できるだろうと泉氏は言う。ただ、1つだけ大きく変わっているのは、最初の「Attentionをどうやって取るか」という点。人々の興味や関心を引くための手段の選択肢が大幅に広がっているのだという。
以前はテレビしかなかった動画コンテンツは、今やYouTubeなどのネットサービスが多数ある。昔は新聞広告しかなかったところ、最近はReal Time Bidding(RTB)やData Management Platform(DMP)を活用したネット広告が広がりを見せ始めた。
AISASをベースとしながらも、マーケターが押さえておくべきAttentionを取るための要素が日々増え続けている。“テレビのことしか知らないからRTBなどは気にかけない”といった態度では、そのマーケターのできる仕事は狭まるだろうというのが同氏の考えだ。
では、この時代に何をしなければならないのか。膨大な技術や知識、世の中の潮流などをすべて網羅的にマーケター1人が把握することは不可能だ。しかし見方を変えれば、動画、SEO、SEM、DMP、CRM、アクセス解析、パーソナライゼーションなど各分野に詳しいスペシャリストは数多くいる。
マーケターが立つべき位置は、それらスペシャリストをプレーヤーとした指揮台の上、指揮者として動くのがこれからのあり方だろうと主張する。「コンサートマスターとしてすばらしい演奏を披露するのではなく、指揮者としてオーケストラをまとめる能力」がマーケターの備えているべき資質だという。
マーケターが見るものは譜面となるデータ、プレーヤーとなるのは社内のチームメンバーや外部ベンダー、広告代理店、あるいはその中の一人ひとり。各楽器が偏って鳴るようなことにはせず、「今この楽器が一番鳴るべきタイミングだと思った時に、その楽器を鳴らすという指揮をする」。つまり、適切なところに適切なタイミングで投資するというような役割が、マーケターには求められる。
以前は最高マーケティング責任者(CMO)がこれら多くの役割を一身に背負っていたことから、2006年までその任期が平均で23カ月前後だったという。つまりは「成果がすぐに出ないとして、2年経たずに交代させられてしまう。CMOは割に合わないため、なりたがらない。やらなければいけないことに対して報いが少ない」
ところが、ある調査によれば2009年には任期が30カ月を超え、2012年には45カ月に達している。この要因として、リーマンショックの影響で人件費などのコストを抑えたこともあるが、「“オーケストラの指揮者”がCMOの役割だということをCEOが理解し始めた」点と「1~2年で結果の出る仕事ではない、ということが認知された」点が大きいと同氏は考えている。
「指揮台に上がれるマーケターにとって今はいい時代」
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