この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して東南アジアの今を伝える。
今回紹介するのは、コールセンター集積国でオペレーターを教育するサービス「BagoSphere」。これまで取り上げてきたITビジネスを運営する企業とは少し毛色が違うが、東南アジアならではの事業を展開しているという意味では興味深いため、紹介させていただく。
BagoSphereは、フィリピンの都市Bago Cityのコールセンターで働くオペレーターを教育することで、彼らが仕事に就きやすくするサービスだ。2010年にアイデアを着想し、2011年にパイロット版としてスタート。その実績を携え、2012年に資金を調達し、2013年から本格的に事業を開始した。これまでに93人のオペレーターを輩出しているという。
フィリピンは、欧米企業のコールセンターが集積する国である。Co-FounderのIvan Lau氏によれば、米国企業の30%が同国にコールセンターを置いている。その理由は3つある。1つめは、オペレーターには欠かせないホスピタリティの文化が周辺国に比べて強いこと。2つめは、米国英語に近い発音ができる人が多いこと。
そして3つめは、賃金が低価格であることだ。同氏曰く、米国で1人のオペレーターを雇うだけの金額があれば、フィリピンでは7人を雇うことができるという。これはシンガポールでも同様で、1人分の賃金で5人を雇えるという。米国企業が遠く離れたフィリピンにコールセンターを置きたがるのはそのためだ。
BagoSphereが提供する教育プログラムは、主に18~25歳の高校や大学を卒業した若者が対象。まず彼らはBagoSphereによる一次審査を受け、通過すればプログラム受講を保証するコミットメントフィーとして15シンガポールドル(1シンガポールドルは約81.5円)をBagoSphereに支払う。さらに両親など保証人のサインが入った保証書を提出し、二次審査を通過すれば、プログラムを受けることができる。
プログラムは、2カ月間で朝8時から夕方5時まで行われる。コールセンターの仕事にそのまま活かせる、より正しい英会話のための発音や文法、そして顧客からの電話に対応するためのスキルを学ぶ。
さらに、「ファイナンシャルリテラシー」や「ライフスキル」の講座も受講する。ファイナンシャルリテラシーの講座ではコールセンターで稼いだ賃金を計画的に使うためのノウハウを、ライフスキルの講座では将来の自分や家族の人生設計を描くための技術を学ぶ。BagoSphereは、彼らが仕事に就きやすくするだけでなく、彼らの生活の質を向上させることも目指しているのだ。
こうした2カ月のプログラムを経て、最終試験に合格した受講生のうち、約8割がオペレーターとしてコールセンターに採用される。その結果、彼らと同じ年代の収入が月に約90シンガポールドルのところ、受講生たちはその3倍強の約300シンガポールドルを稼げるようになる。
BagoSphereのビジネスモデルは、受講生からの返金と、彼らが入社したコールセンターから報酬を得ることである。受講生が1人入社するにつきコールセンターからは150シンガポールドルが支払われ、受講生からは毎月の給料の一部が8カ月間に渡って返金される。返金されたお金はプログラムの運営に活かされる。現在、BagoSphereは2012年に調達した資金で運営を賄っており、黒字化を目指している。将来はフィリピンの他の都市でも事業を展開していきたいという。
現在シンガポールでは、メガバンクのDBSとシンガポール国立大学の機関NUS Enterpriseが共同で、ソーシャルビジネスを支援するビジネスプランコンテスト「DBS-NUS Social Venture Challenge Asia」を開催している。
日本からも応募することができ、締め切りは2014年1月28日。いくつかの審査を経て選出されたものが、各分野の専門家の支援を受けられ、2014年6月に最終的な順位が決定する。1位には3万シンガポールドル、2位には2万シンガポールドル、3位には1万シンガポールドルが与えられる。DBSはこのプログラムに対し、今後3年間であわせて50万シンガポールドルを支援するとしている。興味のあるひとはコンテストの公式サイトで詳細を確認してみてはいかがだろうか。
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