この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
今回紹介するのは、スマートフォン向けのいわゆる出会い系アプリ「Paktor」だ。6月にシンガポールでローンチしたばかりにもかかわらず、すでにアジア各国のユーザーを獲得している。
Paktorはシンガポール発のアプリだが、6月末のローンチからわずか4カ月間ですでに、英語、タガログ語(フィリピンで使われる言語の1つ)、韓国語、タイ語、マレー語、中国語、ベトナム語、そして日本語に対応している。
さらに言語対応を進めるだけでなく、タイ、香港、台湾、マレーシア、フィリピンでもローンチし、各国のユーザー獲得を進行中だ。タイを2カ国目に選んだのは、テクノロジに対する好奇心が強いからだという。今後は中国、韓国、そして11月末には日本でもローンチを控えている。これまでに20万組のペアがマッチングされ、交際にまで発展したユーザーからの報告もあったそうだ。
Paktorの特徴は、“出会い系”と聞いて想起されるであろうユーザー間のトラブルを徹底的に回避しようとしていることである。まず、Paktorを利用するためには自分のFacebookアカウントと連携させて会員登録をする必要がある。しかし、ただFacebookアカウントを持っているだけではなく、50人以上の友人がいることが利用に必要な条件として設けられている。そうすることで、悪質な架空のユーザーの利用を防ごうとしている。
次に、Facebookアカウントでログインしても、Paktorを利用していることがほかのFacebookユーザーに知られることはない。また、Paktorで表示されるFacebook上の情報はプロフィール写真だけで、それ以上の詳細なプロフィールを見られることはないので、執拗に追跡される心配がない。
さらに、マッチングする過程で「誘いを断る」というセンシティブな行動履歴が相手には通知されない。Paktorでは、自分が「いいね!」をした相手が同じく「いいね!」をして初めてマッチングが成立し、個人間でチャットをできるようになる。自分を「いいね!」してくれた相手をたとえ拒否しても、そのことは相手に通知されないため、断りやすく、また断られた方も傷つかずにすむのだ。
また、出会い系アプリで取り沙汰されるトラブルの1つが、青少年のユーザーが巻き込まれてしまうケースだが、Paktorでは原則18歳以上に利用が限られている。16歳以下はアプリをダウンロードできても、ログインできない。17歳はログインして、ほかのユーザーの写真を閲覧できても、それ以上のアクションはできないようになっている。
ここまで情報の開示に配慮する背景には、欧米人にはあまり見られない、アジア人に共通する「シャイさ」があるとCo-FounderのCharlene Koh氏はいう。
日本には“草食系男子”という控えめな男性を揶揄する言葉があるが、その性格はアジアでも共通するらしく、特にシンガポールには自分からアプローチをする男女が少ないのだそうだ。Paktorを発案したCo-FounderであるJoseph Phua氏も、米国留学中に使っていた出会い系アプリで誘いを断られるのを恐れていた経験から着想を得たという。
Paktorの主な利用者は20代の若い男女で、男女比のバランスはほぼ均等。自分の現在地付近にいるユーザーを検索するため、会社が近い人と平日のランチや仕事終わりのディナーの予定を合わせ、対面することを想定している。ちなみに、Facebookのプロフィール写真を、ペットの写真やイラストではなく、自分の顔写真に設定しておくことがマッチングのコツだそうだ。
Paktorにはまだ収益を生みだす仕組みは設けられていない。マッチングしたカップルに映画のチケットをプレゼントするキャンペーンが行われたこともあったが、それはあくまでもユーザーを増やすためのコラボレーション施策で、映画配給会社との間で金銭の授受は一切発生しなかったという。
今後、企業に公式アカウントを付与し、「いいね!」したユーザーに企業の情報が配信される広告の仕組みをテスト的に導入する計画があるそうだが、今はあくまでもサービスの利便性を向上させることで、ユーザー数を拡大することに注力するという。
ドメスティックに展開する出会い系アプリが多い中で、Paktorはアジア全域をカバーしユーザーを囲い込むことができるのか。11月末日にローンチが予定される日本での動向にも注目したい。
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