携帯電話主要3キャリアがiPhoneを発売するなど、近年各社のスマートフォン端末が均質化しつつある。そこで新たな差別化要素として、各社が力を入れているのがサービス面での取り組みだ。
しかし、各社のサービス戦略を見ると、端末とは異なり横並びではない、大きな違いがあるのがわかる。特に最近、サービス戦略で大きな方向性の違いを見せているのが、NTTドコモの「dマーケット」と、auの「auスマートパス」であり、両者の戦略の違いを端的に表すと、前者が“オープン”、後者が“クローズ”ということになる。
両者の戦略の違いを確認していこう。まずdマーケットについて。ドコモは10月10日に開催された冬春商戦向けの新製品発表会において、サービスの“キャリアフリー”を打ち出し、ドコモの各種サービスを利用する際に必要となる「docomo ID」を、ドコモユーザー以外でも取得可能にすると発表。さらに「dビデオ」「dヒッツ」などdマーケット内の各コンテンツも、2014年3月までに他キャリアのスマートフォンで利用できるよう準備を進めている。
docomo IDはこれまでドコモの電話番号とひも付いていた。そのため、同社の回線を利用していればログインなどの手続きをせずにサービスが利用できるほか、キャリア決済である「ドコモケータイ払い」にも対応するなど、ドコモが持つサービスと連携した便利な仕組みを、自社のユーザーだけに提供することで差別化を図ってきた。それをあえてオープン化したのには、大きく2つの狙いがあると見られる。
1つは、サービスを回線にひも付けないことで、ユーザーと収益機会を広げることだ。dマーケットは「dビデオ」の会員数が450万を突破するなど好調だが、利用できるユーザーがドコモのスマートフォン利用者に限られるため、将来的に見れば獲得できる会員数に限界がある。
ドコモは総合マーケットサービスであるdマーケットをはじめ、クラウドを活用した新サービス領域の拡大を成長戦略の柱の1つとして位置づけており、同社代表取締役社長の加藤薫氏はかねてより「(ネット通販大手の)Amazonを目指す」とも発言している。そうした成長戦略の実現のためには、キャリアフリー化による獲得会員の拡大が必要不可欠だったといえよう。
そしてもう1つは、サービスのキャリアフリー化でドコモユーザーの優位性を相対的に高め、同社の会員獲得につなげる狙いだ。docomo IDがキャリアフリー化しても、dマーケットへのログインが不要であることや、ドコモポイントやキャリア決済が使えることなど、ドコモユーザーが得られるメリットは変わらない。
こうしたメリットは、今のところ他社のスマートフォンでは得られないものであり、dマーケットのサービスに魅力を感じるユーザーが増えるほど、利便性を求めてドコモに“乗り換え”する可能性は高まるといえる。
ドコモがdマーケットのオープン化を積極的に進める一方、KDDIの「auスマートパス」は、あくまで同社のスマートフォンユーザーに対する価値を高め、他社と差別化する要素として活用する、クローズドな方針をとっている。これには、auスマートパスが他キャリアとの差別化のために生み出されたサービスであるのに加え、KDDIがユーザーとの接点を持つために設けられた、戦略的なサービスであることが大きい。
フィーチャーフォン時代には、キャリア自身がプラットフォームを用意していたことから、他の制約を受けることなく、直接ユーザーに向けてサービスを提供することができた。しかし、スマートフォンになるとプラットフォームはアップルやグーグルに掌握される。特にアプリにおいては、プラットフォームの意向が大きく働くことで、キャリア課金などの基本的なサービスでさえ大きな制約を受けることがある。それゆえ、キャリアがユーザーに対して思い通りのサービスを提供するのは難しくなっていたのだ。
そこでKDDIは、そうしたプラットフォーム企業の制約を受けることなく、ユーザーにサービスを届ける環境を設けるために、“毎月390円でアプリ使い放題”という分かりやすい価値を持つ、auスマートパスを提供して会員獲得に乗り出したといえる。実際、auスマートパスは幅広いユーザーを取り込むことに成功し、9月には800万会員を達成。スマートフォン購入時に店頭で加入させられることが多いのには賛否があるが、それでもAndroidで99.7%、iOSで98.6%と、高い継続率を維持していることは大きい。
ゆえにauスマートパスは、あくまでauユーザーに対し、有益な価値を提供することにこだわっている。auスマートパスといえば“アプリ使い放題”のイメージが強いが、最近ではiPhoneを利用する会員向けに、AppleCare+の修理代を実質ゼロ円にするサポートサービスを設けるなど、お得感を重視する施策を強めている。10月24日には、auスマートパスユーザー限定の特典を拡充するため、三越伊勢丹ホールディングスやエイチ・アイ・エス、一休.comなどと協業し、特別プランやクーポンを提供することも発表した。
割引クーポンなどの施策は、当然ながら割引をする店舗側の協力があってこそ実現できるものだが、店舗側にとっては損失を生む可能性もあるだけに、簡単に実現できるものではない。だがauスマートパスは、800万会員を抱え大きな送客力を持つだけでなく、有料の会員サービスであるため“原資”がある。
このユーザーから得た原資を、取り放題アプリと同様、集客した店舗側にレベニューシェアで分配する仕組みにしたことで、参入企業を増やすのに成功したとのことだ。こうした取り組みは無料のネットサービスでは実現するのが難しく、多数の有料会員を抱えるクローズドなサービスならではの強みともいえよう。
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