この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
これまでと同様に、シンガポール国立大学(NUS)が運営するインキュベーション事業「NUS Enterprise」の支援を受けるスタートアップ企業の中から、同事業のメンターが推薦する企業を取り上げる。
今回紹介するのは、カーシェアリングサービスの「iCarsClub」だ。車を貸したいオーナーと借りたい人をつなぎ、取引を支援するサービスとして、シンガポールを拠点に2012年12月にローンチした。すでに多くのユーザーを抱えており、さらに積極的な海外進出を進めている成長企業である。
iCarsClubは、所有する車に乗らない期間に、友人や近所の人、会社の同僚などに貸して収入を得たいオーナーと、車には乗りたいけれど自分で買うお金がない、もしくは買うほど頻繁には乗らない人をつなぐカーシェアリングサービス。PCとスマートフォンのウェブブラウザで提供されており、ローンチから6カ月間で1000台の車が登録されている。このうち200台がアクティブに取引され、1週間で120台ほどの車が利用されているという。
自分の車を貸したいオーナーは、まずiCarsClubで会員登録をする。会員登録には、氏名、シンガポールの居住者に割り当てられる身分証明のための番号、生年月日、性別、職業、住所、免許証の発行日、運転経験年数、過去に起こした交通事故の件数、交通違反による減点数などの入力が必要で、このうち一部をFacebookアカウントと連携させることで省略できる。
こうした個人情報を取得する目的は、サービスの利用状況と照会することで、ユーザーコミュニティを良質に保つことである。次に車を登録する。車は購入してから8年以内、走行距離40万キロメートル以下であることが条件だ。登録から2営業日以内にiCarsClubの事務局から審査に関する連絡がある。
審査を通過して会員登録が完了すると、「iCarBox」というシステムを車にインストールする。このシステムが画期的で、キー(鍵)レスでの車のロック解除や、走行するレンタル中の車を追跡できるようになる。このシステムのおかげで、オーナーと借りたいユーザーは、対面して車のキーの受け渡しをする必要がなく、またオーナーも自分の車の所在を常に確かめることができる。従来の車の貸し借りの手間や不安を軽減する仕組みだ。キーレスでの車のロック解除の仕方については、後ほど説明しよう。
オーナーは、1カ月間の上限金額を1000シンガポールドルとし、レンタル料金の80%と走行距離に応じたガソリン料金を収入として得られる。残りの20%がiCarsClubの収益となる。オーナーへの収入は月末に締められ小切手で支払われるが、レンタル期間の終了後、料金の計算などに15日間ほど要するため、支払いはレンタルした翌月の下旬に行われる。なお、車内での喫煙や返却期間の無断延長など、利用者がなんらかの契約違反をした場合には、iCarsClubを通じて追加で罰金が支払われる。
車を借りたいユーザーも、オーナーと同様に会員登録が必要だ。年齢が25歳以上~65歳未満であることが条件で、そのほか、自動車免許の有効期限や過去の交通違反、事故に関する経歴などが、審査基準として考慮される。このほかにも、ユーザーの審査基準や契約条件には細かい条項がいくつも盛り込まれており、オーナーとその車を保護し、ユーザーコミュニティを良質に保つための周到な配慮がうかがえる。審査は3営業日ほどで完了。その後、車を予約することができる。
車の検索や予約はPCとスマートフォンの両方で可能だが、予約については、操作性の観点から事務局はPCでの操作を推奨している。まず、検索画面で車を借りたい期間、ピックアップ・返却したい場所などを指定し検索する。すると、条件に合致した車の一覧が、写真、車種、年代、場所、料金に関する情報付きで表示される。好みの車を選択すると、場所の地図、トランスミッション、シートの数、オーナーに関する情報、過去にレンタルしたユーザーによる評価やクチコミなどを閲覧できる。予約ボタンをクリックすれば申込完了だ。
iCarsclubのCo-founder兼CEOのEddy Zhang氏によれば、「レンタカーショップでは、一般的な車種だと1日270~280シンガポールドルが相場のところ、iCarsclubでは40シンガポールドルほどで借りられる。BMWやアウディのような高級車種でも相場が1日400~500シンガポールドルのところ、200~300シンガポールドル」と、非常にリーズナブルだ。
申込が完了すると、指定された車のオーナーにSMSでメッセージが飛ぶ。そのメッセージに書かれたリンク先のページで、オーナーがユーザーのプロフィールなどを確認し、承認すればレンタル契約が成立だ。
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