日系企業が続々と進出する東南アジア。ASEANに加盟する主要国をあわせると人口は6億人を超え、旺盛な消費性向が特徴の中間層が急増している。この新たな市場で事業拡大を狙いたいIT企業も多いのではないだろうか。
この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。まずは、シンガポール国立大学(NUS)が運営するインキュベーション事業「NUS Enterprise」の支援を受けるスタートアップ企業の中から、同事業のメンターが推薦する企業を数回にわたり取り上げていく。
今回紹介するのは、2014年末に発売予定のiPhone取り付け型カメラレンズ「ladibird」とその専用アプリを開発する「aKu」だ。ladibirdは、iPhone(5以降に対応)にスライドし装着するカメラレンズで、専用のアプリを起動した状態でケースに付いたボタンを押して撮影すれば、プロユースのカメラに負けない美しい写真を撮影できるという。
スマートフォン向けのカメラレンズは、大手電機メーカーや端末メーカーなどが続々と新商品を投入している新市場。ソニーは9月に行われるIFA2013で発表されると噂の「DSC-QX10」「DSC-QX100」を準備中と見られる。また、ややカテゴリは異なるが、サムスンやノキアなどがデジタルカメラ並みのレンズ一体型のスマートフォンを発売している。
そんなカメラレンズ市場に打って出ようとしているladibirdの最大の特徴は、その画質と価格だ。内蔵のイメージセンサには、サイズが平均的なデジタルカメラに搭載されているセンサの4倍弱、スマートフォンの7.5倍のものを採用している(画素数は非公開)。さらに、その外側に取り付けられたレンズには、開放F値1.8のレンズを採用しているという(フラッシュは非搭載)。
これにより、従来のスマートフォン内蔵のカメラよりも、はるかに被写体の輪郭や立体感をくっきりと表現できるほか、暗い夜間や屋内の撮影にも強い。またF値が小さいため、被写体は明るく写し出され、背景は柔らかくぼかしたように表現されるため被写体を引き立てる。特に人物や物体など、なにか一点にフォーカスして撮影したいシーンなどに適しているだろう。もちろん動画の撮影も可能だ。
これほどのスペックのデジタルカメラを手に入れようとすれば、端末本体だけでも599~4999USドル、さらに125~250USドル相当のズームレンズを購入する必要がある(aKu調べ)。それが、ladibirdなら315USドルで手に入るのだ。大きさは、iPhoneよりも一回り大きい程度。ビューファインダや交換用のレンズなどを携帯する必要がなく、持ち運ぶには便利だろう。
ladibirdでは、ウェブ上への写真のアップロードも簡単にできる予定だ。FacebookやTwitterへの投稿はもちろん、メールやメッセンジャーアプリへの添付、Dropboxのようなクラウドストレージサービスへの保存も可能となる。従来のようにデジタルカメラで高画質な写真を撮影し、PCを経由してウェブ上にアップロードする、なんて面倒なこともなくなる。
一方で、写真が高画質になりデータ容量も大きくなるため、ウェブへのアップロードに時間がかかるのではないかという懸念もあるが、独自のアルゴリズムを使ってデータを圧縮させるため、そのような心配はないという。
ladibirdにファウンダー兼デザイナーとして携わるAdam Latip氏は、シンガポールのスマートフォンユーザーの約半数がiPhoneを使っていると説明し、国内だけでも一定の需要はあると期待する。また、ladibirdはカメラ好きやプロだけでなく、一般的な人たちにも喜んでもらえると語る。小さい子どもの成長過程を撮影して残しておきたい、自分が食べた料理の写真をきれいに写して自慢したい、そう考える人たちにとって、スマートフォンはデジタルカメラよりも身近な存在だからだ。
Adam氏は当面、シンガポール、米国、香港に在住する写真好き、もしくは写真に精通しているiPhoneユーザーをターゲットに据えて事業を展開する予定で、これら3カ国だけでも100万人の潜在顧客が存在するとみている。また、将来的には東南アジア全域、日本、欧州、中国などへの展開も視野に入れているという。ちなみに日本への進出は、NTTドコモがiPhoneの販売を正式に決めた後になるとのこと。
なお、ladibirdは現在、クラウドファンディングサイト「indiegogo」でスポンサーを募集している。8月28日時点で受け付けている支援は一口167USドルで、支援者の元には見返りとして2014年9月までにladibirdが届けられる。目標となる資金調册額は2万USドル、期限は9月12日までとなっている。
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