この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。前回に引き続き、シンガポール国立大学(NUS)が運営するインキュベーション事業「NUS Enterprise」の支援を受けるスタートアップ企業の中から、同事業のメンターが推薦する企業を取り上げる。
今回紹介するのは、モバイルCtoC市場のルーキーアプリ「Carousell」を運営するCarousellだ。同社は2012年5月に創業したばかりだという。
Carousellは、モバイルCtoCアプリとしてはオーソドックスなサービスだ。スマートフォンのカメラで売りたい物を撮影して、自分で価格を設定し写真をアップロードする。商品を買いたい人が見つかれば、アプリ内のチャット機能で取引をするというもので、iPhoneやiPad、Android OS搭載のスマートフォンに対応している。
モバイルCtoCは、スマートフォンの普及を背景に日本でも企業の参入が相次ぎ、注目が高まっている市場だ。日本製のアプリでは、スタートアップ育成プログラム「Open Network Lab」から生まれた女性限定のフリマアプリ「Fril」や、元ウノウの山田進太郎氏が7月に開始した「メルカリ」などがある。
Carousellの最大の特徴は、そのタグラインで明確に示されている。“Snap, List, Sell. Create free listings to sell items you once loved in 30 seconds.”=「撮って、並べて、売る。自分のお気に入りの商品を自由に並び替えて、たった30秒で売り出すことができる」、その手軽さだ。
商品を販売するには、まずCarousellアプリを起動した状態で、スマートフォンのカメラで売りたい物を撮影する。次に、商品カテゴリ(美容商品、デザイン&クラフト、ライフスタイルガジェット、スポーツ用品など)、商品名、説明文、商品の受け渡しをしたい場所、価格を設定し、公開ボタンをタップするだけだ。商品の受け渡しは基本的に手渡しだ。
私物を撮影した写真はいわば“宣材写真”。Carousellはその写真のクオリティを引き上げるのも手伝ってくれる。「Aviary」というサードパーティの画像エディタをアプリに組み込むことで、解像度や明るさ、色味、被写体の角度、ぼかし、彩度などを簡単に調節し、演出することができる。さらに、写真は1つの商品につき4枚までアップロードできるため、いろいろな角度や側面を切り取って、閲覧者の商品理解を促すこともできるだろう。
商品を買う側の操作もシンプルだ。商品を探したい時は、ホーム画面のカテゴリをブラウジングするか、商品名もしくはユーザー名から検索をする。趣味の近しいユーザーをフォローすることで、ブラウジングをパーソナライズすることもできる。さらに、出品者とのチャットを開始する際に、希望の価格を設定できる「価格交渉」機能も搭載されており、「値引きは気が引ける」というユーザーにも嬉しい。
CarousellのCo-founderであるMarcus Tan氏によれば、Carousellにはこれまで16カテゴリ、30万点以上の商品が出品されているという。また、そのうちトップ5のカテゴリが「女性向け」「美容商品」「男性向け」「ライフスタイルガジェット」「デザイン&クラフト」と幅広いのも特徴だ。
さらに、約70%のユーザーが16~34歳までの女性で、「購買、販売、物々交換に対する意欲がものすごく高いセグメント」とMarcus氏は分析する。彼女たちが出品している商品は、ZARAやForever 21などのストリートファッションや、M.A.CやNARSなどの美容ブランドアイテムがメイン。なんと、小売価格の80%オフの価格で取引しようとすることが多いそうだ。
Tan氏によれば、ASEAN地域のモバイルCtoC市場における目立った競合企業はまだ存在しないが、「eBay」やオーストラリア発のEコマースサイト「Gumtree」などを、垂直的な観点から見た場合の競合として捉えている。またCarousellは、モバイルファーストかつ、16~35歳の比較的若い層にフォーカスしたサービス設計により差別化できるとしている。
現在は、ユーザー数の増加に注力しており、サービス内に同社に収益をもたらすようなスキームやコンテンツは用意されていない。ただし将来的には、商品の受け渡しにおいて代金引換による郵送や、デジタル商品であればEメールでの送付などを可能にし、そのトランザクションに伴って手数料が発生するスキームの構築や、出品者が利用できる有料の広告出稿機能の実装などを検討しているそうだ。
残念ながら、現時点では日本のユーザーは利用することができないが、Tan氏は日本でもサービスを利用できる策を練ると話してくれた。当面はシンガポール国内に注力し、今後の数カ月でマレーシア、インドネシアを皮切りにASEAN地域の他国へと進出するという。同社が国境や地理的な距離の課題をどのようにして乗り越え、アジアのモバイルCtoC市場を切り拓いてくれるのか楽しみだ。
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