「iPhone 5s」に見る「次」への布石--松村太郎の視点

 Appleが米国時間9月10日に発表したiPhoneの新モデルは、これまでの製品ラインを引き継ぐハイエンド版のiPhone 5sと、エントリーモデルとして新たに設定されたiPhone 5cの2機種がお披露目となった。

エントリーモデルとし登場した「iPhone 5c」とハイエンド版の「iPhone 5s」
エントリーモデルとし登場した「iPhone 5c」とハイエンド版の「iPhone 5s」

 米国のテックコミュニティからは、失望の声も届いている。スマートフォンやタブレットに変わる全く新しいデバイスについての期待が高まっていただけに、これらに全く触れられなかった点が主な理由だ。またウォール街は、iPhone 5cが2年契約で16Gバイトモデル99ドルという価格は高いのではないかという指摘もある。

 iPhone 5cは外装の製造コスト低減こそ行ったが、iPhone 5を踏襲するA6プロセッサ、800万画素カメラ、4インチRetinaディスプレイとなった。バッテリ容量の増加、LTEの対応拡大、インカメラの向上なども含まれ、iPhone 5の体験プラスαを実現している。もちろんiPhone 5ユーザーにとって魅力的な選択肢ではないが、これまでのiPhoneの「1年前の古いモデルを廉価版として扱う」というルールを廃止、「廉価版も新機種」と位置づけ直した点は、iPhoneのエントリーモデルを選ぶユーザー層を広げる可能性がある。

 他方、iPhone 5sは3つのポイントに絞って大幅な進化が施された。これについて詳しく述べる前に、1点指摘しておきたいことがある。

 Appleは1年に1度ずつiPhoneを更新する度に新しいデバイスの性能や体験を提案し、スマートフォン業界のスタンダード決める役割を担ってきた。価格を上げず、その年にiPhoneを購入するユーザー全員に最新の体験を提供してきた。

 しかしエントリーモデルが加わることで、ユーザーは先端を行くか、ベーシックを選ぶかに分かれる。ハードウェア的な新機能を普及させる速度は、年間1モデルだったこれまでよりも下がってしまったことを意味する。裏を返せば、そろそろiPhoneのみならず、スマートフォンの自体の性能面での飛躍的な進化にブレーキがかかってきた、もしくはさらに進化させるにはApple自身のこれまでのポリシーを曲げることが必要な状態にあるようだ。

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