NHKが検討を進めてきた放送と通信の連携サービス「NHK Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」が、9月2日にサービスを開始することとなった。
先日の発表によれば、放送波では制御信号のみを送りネットからコンテンツを集めるため、情報量の上限が大きく上がる。またHTML5による高精細で表現豊かなグラフィックなどが特徴だという。確かにこれらは新たな要素ではあるが、印象としては「データ放送の進化版」。実際、情報量上限もグラフィックも「データ放送と比べて」という評価の一文が上につきそうな雰囲気だ。
9月にスタートするのは第一段階であり、秋以降にも新たなサービスが追加される予定だが、この内容に「期待外れ」と感じた人もいるだろう。しかし、実はこの「ハイブリッドキャスト」は、もっと大きなポテンシャルを秘めたサービスなのだ。
ハイブリッドキャストが表舞台に登場したのは、2010年の「NHK放送技術研究所公開」(技研公開)。実はこのタイミングがサービスの位置づけという意味ではとても重要で、同年はGoogleがスマートテレビのプラットフォーム「Google TV」を発表し、かつそれを搭載した端末「Sony Internet TV」が全米で発売された年でもある。
つまりハイブリッドキャストの原点は「スマートテレビ時代におけるプラットフォームの主導権争い」にある。もっといえば、Googleによるテレビ画面の占有を警戒した放送局が、自らプラットフォームを提供することで、放送と通信の融合サービスにおける優位性を発揮することこそが当初の狙いだった。
放送局自身がスマートテレビプラットフォームを提供することで生まれる優位性とは何か。ひとつは、放送番組との連携・同期がはかりやすいという点だ。放送波に制御信号を埋め込んでいるため、番組の内容に応じて最適なコンテンツを配信することができる。
2013年の技研公開でTBSが紹介していた「カラオケ採点サービス」がわかりやすい。音楽番組で楽曲が演奏されるタイミングに合わせて、スマートフォンやタブレット端末上のカラオケ採点アプリを起動し、カラオケ採点ゲームを楽しめるというものだ。この場合、放送波の制御信号を受信しているのはテレビであり、モバイル端末にはWi-Fi経由でさらに信号を飛ばしているため、同期タイミングをあわせる難易度はかなり高い。
また、ネット利用時のユーザーインターフェースにおいても優位性が発揮されやすい。たとえばスポーツ中継を視聴中、気になった選手や事象についてネットで検索する、という利用シーンはよくある。この場合、PCやスマートフォン、タブレットなど端末を問わず、ユーザーが文字を手入力する必要がある。
しかし、放送局側が提供するプラットフォームであれば、気になるであろう選手名、チーム、場面などを検索候補としてその都度用意することができる。イチローが安打を放った直後ならば、検索候補表示「イチロー」を選ぶだけで動画を含めたネット上の詳細情報を呼び出せるようになるというわけだ。
ようは文字入力の手間が省けるということだが、あえてこれを特徴に挙げたのは「Sony Internet TV」などの端末において、テレビリモコンを使った文字入力がことのほか面倒だったことに由来する。今ならばスマートフォンやタブレットをリモコン代わりにして音声認識、という手段も考えられるが、あらかじめ検索候補を提示してくれること自体の利便性は高い。
それらの優位性を複合した形で考えられているのが、テレビ画面に映るさまざまなオブジェクトを選択・検索可能にするというサービスだ。サッカー中継であれば、画面上で動きまわる個々の選手が対象で、それぞれを選択することで当試合における選手の詳細情報や検索画面に移れるようになる。またドラマであれば、出演者だけでなく着ている洋服や持ち物、食べ物も対象にできるため、そこから詳細サイトや購入サイトに飛ぶことも可能となるだろう。
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