スマートフォンが最も身近にインターネットにつながるデバイスとなってから、さまざまなサービスのあり方が変化してきた。その1つが「ニュース」だ。ニュースメディアが提供するアプリ、アグリゲーションサービス、人力、もしくは機械によるキュレーションサービスまで、形はそれぞれ異なるが、ユーザーがニュースに触れるシーンは大きく変わりつつある。
その変化の中心にあるサービスの1つがゴクロが手掛ける「SmartNews」だ。SmartNewsはソーシャルメディア上で言及されるニュースのURLなどを解析し、「エンタメ」「経済」「テクノロジー」といったジャンルごとに注目度の高いニュースを自動的に選択して表示するアプリだ。データを事前にキャッシュすることで、ニュースを素早く表示する「Smartモード」を備える。
機械によるキュレーション、キャッシュによるアクセスの快適さ、そしてスマートフォンに最適化されたユーザーインターフェースなどがユーザーに評価される一方、Smartモードのキャッシュ機能に対して「コンテンツのタダ乗り」「著作権を侵害しているのではないか」という声を上げるメディア関係者なども少なくなく、ゴクロがブログ上で自社の見解を表明するに至った。
そんなゴクロだったが、アットマーク・アイティ創業でアイティメディア代表取締役会長を務めた藤村厚夫氏を執行役員事業開発担当に招聘(しょうへい)。今春以降メディア各社と「チャンネルプラス」と呼ぶ専用チャンネルでのコンテンツ配信で提携を進めている。チャンネルプラスは、8月8日に100万ユーザーを達成。さらに8月14日には、グロービス・キャピタル・パートナーズを割当先とした4億2000万円の第三者割当増資も発表。今後の開発体制を強化することも明らかにしている。
ウェブメディアを黎明期から支えてきた藤村氏は、SmartNewsにどんな可能性を感じたのか。また、スマートフォンで変わるメディアの未来をSmartNewsはどう変えていくのか聞いた。
私は長くメディアの側にいました。メディアのビジネスとはコンテンツを企画するところから、読者に見てもらい、マネタイズまでを垂直統合的にやりたいというモチベーションに基づいたビジネスです。
ところが、「垂直統合したい」という思いがうまく機能していないということを強く意識するようになってきました。たとえば検索エンジン経由であれば、メディアのトップページをスルーして、記事単体を読んで立ち去られるという動線ができてきます。作り手の「こう読んで欲しい」という動線とは異なる消費者の欲求が生まれてきたというのがここ10年の観点です。
その流れが極まってきたのはモバイルの時代であり、そして良くも悪くもソーシャルの中で情報がやりとりされるようになってきた今の時代です。
今のメディアのあり方について、媒体社の中で考えないといけないという思いがある一方で、垂直統合的とは違う価値の中でないとブレークスルーが生まれないと思うようになってきました。媒体社の制約がないところでコンテンツのあり方を設計したい、と。
それは結果的に「コンテンツを大切にする」ということ、「コンテンツでメシを食っていける」ということをもう一度創造するということでした。これを予定調和的に会社の中でやるのでなく、より専念したいという欲求がありました。そんな中で(ゴクロ取締役の)鈴木健からゴクロに強く誘われました。
SmartNewsはユーザーから支持されている一方で、「メディアのビジネスから見てどうなのか」と言われている時期でした。媒体社のコンテンツあってのSmartNewsです。メディアとどうすればWin-Winになるか、もしくはエコシステムを作れるかという問題意識がありました。
私が媒体社の外からメディアを見直したいとなったきっかけの1つの「直感」なのですが、メディアに携わる人は、「コンテンツそのものが読者を引きつけている」と信じているところがあります。
その考え方は、良質なコンテンツを作るモチベーションになるすばらしいことです。ですが一方で、その考え方が邪魔をして、メディアビジネスに対して柔軟にアプローチしにくいケースがあると思います。
良いユーザーエクスペリエンスというのは、コンテンツから生まれにくい概念ですよね。「きれいな液晶でオーディオもすごいテレビ」を買うということは、テレビで流れるコンテンツの価値とは関係ありません。良いコンテンツを、自分の思った文脈の中で存分に見たいと思えるユーザーの総合的な感覚がエクスペリエンスです。コンテンツがすべてではありません。
そういうことは、メディアの中にいると理屈で分かってもうまくビジネスにできないと思いました。これはメディアを経営している中での悩みでした。メディアはコンテンツの価値に収れんすべきですが、実はコンテンツの価値だけでない消費者の動向とは乖離(かいり)するところがあります。
スマートデバイスでコンテンツの楽しみ方は広がりました。ですが、これまでの収入や生産システムはスマートデバイスの世界を想定していませんでした。その結果、メディアの行動を苦しくさせています。こういったことを考え直すには、記者がいて、CMSがあって、広告を売る営業がいて――というメディアの枠組みを一度見直した方がいいと思っています。消費者はこれまで以上にコンテンツに触れやすく、楽しめる状況です。答えははっきりしている訳ではありませんが、枠組みは変えないといけないでしょう。
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