SmartNewsの価値は良いコンテンツを見つけてくる「コンテンツディスカバリーエンジン」という仕組みと、見つけてきたコンテンツを気持ちよく読ませるように配慮したアプリの融合だと思っています。これは究極の「メディアブラウザ」を目指すために重要な要素でしょう。この2つの要素が分離している例はいくらでもありますが、統合できているものはあまりないと思っています。
では「良いコンテンツとは何か?」という話になるかと思います。それはテクノロジ的に言うと、「自分が関心を持っている分野のコンテンツをちゃんと見つけてくれる」ということ、つまりパーソナライズされた仕組みです。この仕組みについては比較的に評価されているかと思います。
しかしそれと同時に「自分の関心を持ったコンテンツだけ読むことがいいのか」という課題は割と大きいものだと思っています。SmartNewsでは、Crowsnestの経験を踏まえて、個人に収れんしすぎる情報取得を見直し、「多くの人が面白いと思っているコンテンツ」というところを軸に価値観を生み出しています。
もう1つ価値を感じていることがあります。多くの人がいいと思っているコンテンツ(の指標)というのは、GoogleのPageRankに相当するものです。SmartNewsは、それにリアルタイム性を与えていることです。
PageRankは「長く、積み重ねた価値」です。それと対極的な「今多くの人が注目している」ということも重要な世界観です。それを最適に表現できるのはSmartNewsの良い点です。「今この瞬間」の情報提供に対して、可能性を開きました。
あまり個人の関心嗜好に収れんしてしまうと、既視感が出てきてしまい、「なんとなく面白いけど、見たことある気がする」となってしまいます。SmartNewsの場合、そういう要素は弱いので、「初めて聞いた」という発見、セレンディピティが生まれやすい仕組みでもあります。
会社としても、パーソナライズよりも「多くの人の価値観」に向かってチューニングしています。ただ、パーソナライズが将来に渡って価値がないと思っている訳ではありません。ただ、これまで考えられてきたパーソナライズには、実はマイナス要素もあるのではないかというのが我々の視点です。
先ほどの話とも重なりますが、私がゴクロにジョインした時は、ユーザーに喜ばれる一方で媒体社には「ちょっとな……」と思われているところで、どうすればいい関係が作れるかを模索しているところでした。
そこで取ったアプローチは、「媒体社の懸念されている要素は論理的にもシステム的にも潰す」ということでした。
まず、SmartNewsのSmartモードです。これはユーザーに評価されていますが、媒体社の方から見れば、「どこかに複製したコンテンツを保存してるのではないか」という意見があると思います。
そこで浜本(ゴクロ代表取締役の浜本階生氏)が出した答えは、ある種のキャッシュサーバを組み合わせ、瞬間瞬間でキャッシュを持つ、数分たてばキャッシュが消えるというものでした。記事の複製を維持するのではなく、キャッシュを一時的に保持すると説明できるものにしようとなりました。
チャンネルプラスにおいて、SmartNews上でコンテンツを配信する契約が何らかの理由で終了した場合、コンテンツを捨てるかどうかを気にされる媒体社が多かったですが、今はそういった心配をして頂く必要はありません。
検索エンジン同様、インデックスはまとめて取得しています。その中で「この記事を読みたい」となったときにユーザーのアクセスが発生し、ゴクロのサーバ経由でその媒体のコンテンツを取得する仕組みです。
この際にキャッシュを生成するので、原理的にはある記事に一番始めにアクセスする方は、割を食う(キャッシュが生成されていないために時間がかかる)ことになります。ですが、表示処理はなめらかです。アーキテクチャーの変更についてユーザーの皆さんは感じないと思います。
このように、コンテンツを作ってビジネスをしようとしている方々が気になる点について、1つずつ説明できるように積み重ね、再リリースできたのが5月末です。
SmartNewsでは、我々が設定したカテゴリに対して、媒体社のコンテンツを再配置して表示していました。特定のメディアやブランドごとにコンテンツを読んで欲しいという思いとは別の価値観を提供しているわけです。
ですが片方では、「もっと1つのメディアの記事をまとめて読みたい」という声もあります。そして媒体社のブランドに沿った専用の場所を作ることで、よりコンテンツを読んでもらえるのではないかという仮説でチャンネルプラスを始めました。
これは、媒体の利益にも寄与すると思っています。おかげさまで媒体社には喜んで頂いています。これによって、SmartNewsから各チャンネルへアクセス数は、2倍とは言えないまでも、相当増加しています。
また、「特定のチャネルを見る」という購読の意志があるユーザーにだけチャンネルを表示する形ですので、「購読者」の存在が見えてきます。購読者は急速に増えていて、100万人(各チャンネルの登録ユーザー数の合計)を越えました。チャンネルごとに読みたいと表明しているわけですし、Twitterのフォロワーと同じようなものだと考えています。今後はこの購読者を広げていければいいと思います。媒体社にとっても価値があると思います。
SmartNewsがプラットフォームなのかメディアなのかという議論はありますが、基本的に我々はメディアの特定の色を打ち出すのではなく、ニュートラルでありたいと思っています。多くの媒体社に参加して頂いてメリットがあるものにしたいと考えています。
ひょっとするとウェブだけでは出会えなかった読者と媒体社の出会いの場にもなっているかもしれませんし、今後は媒体ごとの課金や広告配信といった、マネタイズの面でもプラスになる取り組みを強化していく方向になるかと思います。
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