2月下旬、携帯キャリア3社は相次いで“Smartな”市販型セットトップボックス(STB)をリリースした。このSTB、平たくいえば「テレビ画面上で映像配信をはじめとするネットサービスが利用できる」もの。もう少し踏み込んで表現するならば、家電メーカーなどがここ数年模索を続けている「スマートテレビ」なる分野への参入であろう(実際、3キャリアとも端末名称に「Smart TV」が入る)。
スマートテレビなる表現が本格的に使われだしたのは2010年、米Googleが「Google TV」を発表し、同年中にソニーが全米で「Sony Internet TV」を発売したころだ。広義においては「テレビ上でネットサービスが利用できYou Tubeなどの動画サイトが視聴できる端末」を指し、狭義では異なる解釈が複数存在するものの「スマートフォンのようにアプリの取得などによりテレビを自由にカスタマイズできる端末」を指すことが多い。
また、広義・狭義に関わらず、スマートフォンやタブレットをはじめとする家庭内の各種端末との連携を重視するケースがよく見られる。特に「帰宅時、途中まで見ていたコンテンツの続きをテレビでそのまま視聴する」といったコンテンツ共有・シームレス連携は、スマートテレビサービスの特長のひとつと考えられる。
今回発売された3端末のうち、NTTドコモの「SmartTV dstick 01」とソフトバンクモバイルの「SoftBank SmartTV」は広義に、KDDIの「Smart TV Stick」は狭義に近いところに分類される。自社提供サービスも含め動画提供に特化した印象のあるNTTドコモ、ソフトバンクモバイルの端末は従来のSTBサービスと大きな差はないが、いずれもスマートフォンからの操作を可能するなど連携を強化することで枠におさめてきた形だ。
KDDIのSmart TV Stickは各種動画サービスへの対応もさることながら、Google Playで提供されている500以上のアプリやゲームもテレビ上で利用できるようになる点で、他社の端末とは一線を画している印象だ。スマホリモコンとは別にSTB専用リモコンを用意しており、そのシンプルな構成・デザインからスマートフォンやタブレットのメインユーザー層以外への普及促進も期待できそうな間口の広さを感じさせる。
3端末に共通したメリットは「テレビにLANケーブルを接続する必要がないこと」だろう。ソフトバンクモバイルに話を聞いた際に、TSUTAYA.comの関係者も指摘しているが、テレビ端末へのLAN結線はハードルが高い。これはデジタル放送開始以降、双方向番組を常に意識しながらなかなか進められなかった放送局の苦闘を見ても明らかだ。宅内にWi-Fi環境を整える必要はあるが、単純に「LAN結線」という作業が不要になるメリットは大きい。
スマートフォンによる操作、これは一長一短がある。普段からスマートフォンに慣れ親しんだユーザーにとっては優れた高機能リモコンとなりえる反面、そうでないユーザーにとっては入り口で門前払いをくらうことになりかねないためだ。またスマートフォンに慣れ親しんだ層であっても、Wi-Fi独特の操作時におけるタイムラグをどうとらえるか、判断は分かれるところだろう。その点、KDDIが専用リモコンを用意したことは評価できるが、リモコン・コントローラの類が部屋内にあふれることを懸念する声も少なからずある。
少々気になるのは、3端末とも「Smart TV」を冠しながら、テレビ放送の視聴機能がないこと。基本的に全国区を対象としたサービスである通信の分野に、地域サービス前提の放送を組み込むことの難しさは理解できるものの、放送視聴あるいは録画機などとの連携がまったくないのは大きな課題といえる。現状は端末の外付けディスプレイとしてテレビを利用しているにすぎず、本当の意味で有機的かつ“Smartに”テレビを利用できているとは言い難い。
放送、録画コンテンツ、公式動画配信サービスから投稿サイト動画までをシームレスに紐付け、ときには各種アプリを楽しみつつ、コンテンツに関連した情報の詳細を検索したり、他人と共有したりする。スマートフォンやタブレットを介したコンテンツの持ち運びも自由自在で、リモコンとしても抜群の操作性を誇る――スマートテレビの完成形をそんな風にイメージするならば、家電メーカー系のアプローチはほとんど王手がかかっている。
遅ればせながら参入した通信キャリア系スマートテレビが巻き返しを図るためには、インフラ事業者としての強みを生かしつつ、さらに新たな付加価値を見出すことが求められてくるだろう。ただし今回、3社がテレビの買い替えと比較して低価格(ドコモ、KDDIは1万円以下で売り切り、ソフトバンクモバイルは月額490円で利用可能)でサービスを提供することは、スマートテレビの普及において大きな転換点となりえる。
まずは端末を普及させて魅力を広く浸透させ、そこから大きなスマートテレビビジネスへとつなげていく。それが実現できれば、3キャリアのみならずスマートテレビに期待をかけるさまざまな関係者にとってプラスとなりえるはずだ。
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