年初にラスベガスで開かれるConsumer Electronics Show(CES)は全世界のエレクトロニクス業界の1年を占う重要な見本市だ。1年の業界動向の感触を確かめるため、筆者は可能な限り毎年参加している。CES 2013の広い会場を彷徨い終えて、この数年のコンピュータ関連産業の動きを考えてみたい。
2013年のCESではっきりしたことが1つある。2010年で筆者が「デベロッパから見るWWDC -- 飛躍を遂げた新iPhone、設計思想は情報化社会の再定義か?」で述べたことが現実になったことだ。
展示会場からPC関連製品がほとんど姿を消したのだ。大手メーカーや半導体メーカーのブースにはノートPCなどが展示されてはいたが、デスクトップPCはほぼなくなり、自作系PC市場は消滅したと言っても過言ではない。展示されているノートPCもWindows 8であり実質上タブレットだ。
iPhoneが発売されて以降、コンピュータ業界が激動期に突入したのは異論のない事実であろう。パソコンという存在はコンシューマー市場から姿を消し、スマホとタブレットの時代となったことが最も印象に残ったことだ。各種周辺機器もパソコン向けではなくスマホの周辺機器なのだ。健康系であったり、子供向けの玩具であったり、家電連携など、非常に多くの製品がスマホやタブレットの周辺機器として展示されていた。
ただし、PCが完全に消えた訳ではない。PCは趣味や仕事の一形態、ワークステーションとしての機能を実現するために、これからも存続する。代表的な例は3Dプリンタだ。昨年のCES 2012で個人向けの3Dプリンタが登場し話題となったが、今年のCES 2013では多数のベンダーが参入し、既に激戦区となっていた。3DモデリングのためのPCは必要なのだ。
PCは仕事、スマホ&タブレットはコンシューマー。スティーブ・ジョブスが遺した世界が完全に実現している。
日本では「フィーチャーフォンからスマホへの転換」という見方をされる場合が多いが、CESから見る世界の動きは「PC産業からスマホ&タブレットへの転換」であり、CPUなどの部品から各種周辺機器もすべてスマホ&タブレットに焦点を合わせてビジネスが展開されている。当然ながらアプリケーションやサービスもこれらに準ずることになる。年始コラム「2013年、アプリビジネスは最終局面の幕開けへ -- スマホアプリ・ビジネスの考察」で述べた通りだ。
こういった大きなエレクトロニクス業界の質的転換期であるからこそ、そして、その本質を見極めた新たな挑戦がCES 2013会場に日本から現れた。ユビキタスエンターテイメント(UEI)のenchantMOONだ。UEIの清水亮氏はiPhone 3G日本発売日に先頭に並び、ZeptoPadというiPhone用手書きメモアプリを開発したモバイル業界では傑出したベンチャーだ。
enchantMOONはAndroidベースのタブレットだが、そのユーザーインターフェースと設計思想は、既存タブレットとはかけ離れた挑戦的なものだ。「手書きで全てを実現する」「アイコンなどいらない」。ここまで挑戦的なハードウェアを実現した、清水氏のコンピュータとはどうあるべきかという理想と実行統率力、UEI技術陣の技術力はスティーブ・ジョブスとAppleのエンジニア達を彷彿させる。CES 2013最終日、清水氏は「アラン・ケイが見たいと言っているらしく見せに行くことになった!」と興奮気味に話してくれた(後日談が同氏のブログに記載されている)。筆者は思わず「神様と会うの!?」と絶句してしまった。それほどまでに、このデバイスは面白い。
かつてウィンテルと呼ばれたPC時代から確実に時代が変わった。それは即ちテクノロジの進化の方向性が確実に変わったのだ。つまりエレクトロニクス産業は新たな黄金期が始まったと言えるのではないだろうか。ハードウェアであれ、アプリをはじめとするソフトウェアやサービスであれ、時代の流れと共に、イノベーター自身の理想を実現するテクノロジの本質を捉え、モノを創り出す力が新たな世界を作る原動力であると再確認したCES 2013だった。
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