一般用医薬品のネット販売規制に関する行政訴訟で最高裁判所は1月11日、国(厚生労働省)の上告を棄却し、ケンコーコムとウェルネットによる一般用医薬品第一類および第二類のネット販売を認める判決を下した(これまでの経緯はこちら)。
最高裁では、一般の消費者のみならず、専門家や有識者にも広範に規制することに反対する意見が少なからず見られ、副作用による事故も報告されていない状況であること。また、改正省令が職業活動上の自由を相当程度制約するものであることが明らかであり、省令での規定が改正薬事法の趣旨に適合するためには、省令の制定を委任する授権の趣旨が規制の範囲や程度に応じて明確に読み取れることを要するという判断を下した。
だが改正薬事法では「ネット販売をしてはならない」という規定はなく、省令が薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効だとし、二審判決を支持する判決を裁判官全員一致の意見として言い渡した。
「ただ黙って従っていたら、日本がおかしくなってしまう」――判決を受けて同日に開催された会見に出席したケンコーコム代表取締役の後藤玄利氏は、支援者への感謝の気持ちを語るとともに、こう振り返った。
2006年6月に公布された改正薬事法では、一般用意薬品を副作用リスクの高い順に第一類から第三類に分類した。この改正薬事法を受けて2009年2月に施行された厚生労働省の改正省令では、「副作用リスクのある医薬品は専門家による対面での情報提供が不可欠」として、一般用医薬品の郵便等販売(ネット販売)を原則禁止とした。
これにより、第三類医薬品(ビタミン剤やうがい薬など)以外のネット販売が禁止されるに至った。離島在住者や継続購入者に関しては、経過措置として期間を限定する形で第二類医薬品(総合感冒薬や解熱鎮痛剤、妊娠検査薬など)の販売が認められたが、これまで販売が認められていた第二類および第一類(H2ブロッカーや育毛剤など)の販売ができなくなった。
これに対してケンコーコムとウェルネットがネット販売を継続する権利があることを確認することを求めたのが今回の行政訴訟。2010年3月の一審判決では2社の訴えが退けられたため、控訴。そして2012年4月の二審判決ではその訴えが認められた。この二審判決を受けて国側が上告し、今回の判決に至った。
後藤氏は米国やイギリス、カナダ、ドイツといった先進国でも、同様の医薬品のネット販売がなされていることを説明し、「他の先進国では認められていることが日本ではダメだと言われる。新しいビジネスをやると、突然やめさせてしまう。そんな日本で若者がどうやって起業できるのか。これも裁判を起こした理由の1つだった」と語る。
「これからも安全で便利な販売を続け、健全な社会に貢献してきたい」と語る後藤氏。ケンコーコムでは判決を受けて間もなく第一類と第二類(これまでも経過措置の対象ユーザーには販売していた)の販売を再開している。
会見では、今後ネット販売でどのようにして安全性の担保していくのかといった質問が投げかけられた。後藤氏はこれに対して、医薬品購入時の事前アンケートや電話、メールを使った薬剤師への質問の仕組み、さらには履歴を元に大量購入を防ぐなどの施策を用意していることを説明。現在7人という同社の薬剤師についても増員する予定だとした。また、ケンコーコムが加盟するNPO法人の日本オンラインドラッグ協会が同日付で新たなガイドラインを策定したことも明らかにした。
また、記者からの「薬害被害者からは、安全性より利便性をとるべきでないという声が上がっているがこれについてどう考えるか」という質問に対しては、「安全性と利便性はトレードオフになるわけではないと思っている。ネットは安全に販売できるし利便性が高い。安全性を担保する枠組みが必要」(後藤氏)と説明。ITと薬剤師を組み合わせた体制で安全性を担保していくとした。
省令施工後、ケンコーコムでは年間5億円の売上が減少しているという。今回の販売再開では、4年前の状況からスマートフォンが普及し、ECの売上が伸びているという背景も踏まえて、「潜在マーケットは大きい」(後藤氏)と期待を寄せる。ただその一方では「今はまず何をやらなければならないかというと、3年半の間に医薬品を入手できなかった、そういう人に届ける体制が必要」(後藤氏)と語った。
同社は現在、シンガポールにも法人を設立しており、シンガポールから日本の国内外に第一類、第二類の医薬品を販売してきいる。同社については、「今回の判決で役割は減ってきていると思う。今後はシンガポールを前線基地としてアジア展開していくなど、役割を変えて発展させていく」(後藤氏)としている。
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