4月26日、ケンコーコムとウェルネットが原告となり、一般用医薬品をインターネットで販売できることの確認を求めた事件で、東京高等裁判所(東京高裁)は一審である東京地方裁判所(東京地裁)の判決を一部変更し、原告らが医薬品をインターネット販売することを認める逆転判決を言い渡した。
今回の裁判で、二審の東京高裁と一審の地裁の結論が分かれたポイントは、「医薬品のネット販売を規制する厚生労働省令が薬事法に基づく適法な規制といえるかどうか」という争点についての判断の違いにある。
具体的にはどういうことなのか? その前にまず、省令と法律の関係を説明したい。各省庁が制定する「省令」とは、国会が制定した「法律」の中で各省庁が具体的な範囲内でのみ法律の内容を定めることができる命令(委任命令)を指す(筆者注:省令には、委任命令のほか、法律等を施行するための省令である執行命令もある。しかし今回テーマとなるのは委任命令であるため、執行命令に関する説明を割愛している)。そのため、省令で定めた内容が法津の委任している規制範囲を逸脱している場合、その省令の規制は、法律の根拠がない規制であるとして違法・無効となる。
そして、ある省令の規制が法律の委任の範囲内といえるかどうかは、法律の文言やその趣旨・目的、立法経緯のほか、規制されることになる権利や利益の性質、重要性といったさまざまな要素をもとに判断されることになる。
今回の裁判では、厚生労働省令が定めた「医薬品ネット販売の一律禁止」という規制内容が、薬事法に委任した範囲内といえるのか、それとも委任の範囲を逸脱しているのかがまさに争点になっているのだ。
東京地裁は、薬事法の趣旨や法改正の経緯などを考慮すると、厚生労働省令は、医薬品の安全性の確保という薬事法の趣旨に基づいて、「薬事法(36条の5及び36条の6)が具体的に委任している範囲内の内容である」として、医薬品のネット販売を規制する厚生労働省令は適法・有効なものであると判断した。
これに対し、東京高裁は、東京地裁と同様に薬事法の文言、法の趣旨・目的、その立法経緯などを考慮した上で、「薬事法は省令で医薬品ネット販売を一律に禁止するという強度な規制をすることまで認めていないため、厚生労働省令は薬事法の委任の範囲を逸脱し、違法・無効である」と判断したのだ。
それでは、地裁と高裁どちらも薬事法の趣旨や立法・改正状況を考慮している点で一致するにもかかわらず、なぜ判断が分かれたのだろうか。
それは、東京高裁では、医薬品ネット販売を一律に禁止する規制は、販売業者に対する規制としては非常に強いものであるため、国民の権利や利益を制限する事項については、省令ではなく法律で規定すべきだ、という点が重視されたものと考えられる。
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