ソーシャルTVサービスとは何か

ソーシャルTVサービスのビジネスモデルと可能性(1) - (page 4)

許 直人(ループス・コミュニケーションズ)2013年01月10日 10時00分

注目の国産ソーシャルTV関連サービス

 日本のソーシャルTV関連サービスから、個人的に注目しているものをいくつかピックアップさせていただきたいと思います。


wiz tv
wiz tv
wiz tv

 wiz tvは、主要7局のテレビ番組の盛り上がりがグラフで分かるアプリです。番組の盛り上がり度はTwitterでの言及数や、リツイート(RT)数などを集計しているそうです。また、リアルタイムな盛り上がりだけではなく、過去の番組にまで遡ってみることができます。

 ただ、このアプリに注目すべき理由はこういった機能面ではなく、日本テレビが自らリリースしているという点です。他局も含めた番組の盛り上がりを表示するということは、状況によっては自局の番組よりも他局の番組が盛り上がっていることが明らかになってしまいます。アプリ開発に携わった方に伺ったところ、「自分たちがやらなければどこかよそがやる。狭い視野で短期的に物事を考えるのではなく、テレビ全体を盛り上げることを考えたら、こういうことにも挑戦するべきだと感じた」と話していました。

 ソーシャルTV関連ビジネスの最初のハードルは「サービス利用者の確保」と「コンテンツの権利問題解決」の2点です。テレビ局が自ら舵を取るこのアプリは、後者の権利問題についてほかのサードパーティーアプリより大きなアドバンテージを持っていると考えられます。例えば、通販番組の『ポシュレ』ではすでにツイート数に応じて視聴者プレゼント数が変化するという企画をやっていますし、『金曜ロードショー』や2012年の年末に放送された『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』におけるTwitter連動など、施策を挙げればきりがありません。

 局全体としても、ノウハウと過去データの両方を蓄積するので他局に対しては先行者利益を築けるのかもしれません。BMLを駆使したJoinTVもありますし、進んでますよね。

emocon
emocon
emocon

 emoconも、wiz tvと同様に番組の盛り上がりが分かったり、その番組の感想をポストしたりできるアプリです。

 機能面ではほかのアプリと大差ないのですが、こちらも最大の強みはデベロッパーです。ソーシャルTV関連ビジネスの最初のハードルは「サービス利用者の確保」と「コンテンツの権利問題解決」の2点と申し上げました。emoconは国内で3000万人近い会員を抱えるといわれるグリーが提供しているだけに、何かあったら(例えばDeNAが参入したら)、急速にトラフィックが流れたり、活性化したりする可能性がないとはいえません。

 ユーザーが増えても「コンテンツの権利問題解決」はなお残るわけですが、ソーシャルゲームプラットフォームはテレビ局に対しては大口の広告主です。やり方によっては何がどうなるか分かりません。

余談:Twitterはリアルタイム系TVサービスのアキレス腱

 前述のマップにプロットされている通り、日本国内のソーシャルTV系サービスは、リアルタイム視聴をより楽しくするカテゴリへの参入が活発です。そして、それらの多くがTwitterのつぶやきをハッシュタグで解析する手法を取っています。

 この点により、サービス事業者は以下2つのリスクを抱えていると考えられます。

差別化が難しい

 情報ソースがTwitterに依存する状態では、やろうと思えばどこのサービスでも同じものを提供できます。機能やインターフェースは設計が競合にも丸見えなので、資本力や開発スピードで他サービスと差別化していくことになります。

Twitterの意向次第ではサービスの継続が困難に

 Twitterは基本的にサードパーティーのクライアントアプリを許可しない方向性を持っていると言われています。APIの制限強化やアプリ露出機会の低下など、Twitterのさじ加減一つでサービスの継続が困難になる可能性をはらんでいます。

ひかりTVどこでも
ひかりTVどこでも
ひかりTVどこでも

 有料放送系なので、上記2つとは経路が違いますが少し紹介させてください。

 ひかりTVはNTTぷららが運営するNTT東/西のフレッツ光向けの映像配信サービスで、その会員数は2012年3月に200万人を超えました。テレビ放送サービスと、ビデオオンデマンドサービスの両方を提供しています。

 これだけですと、ソーシャルTV関連サービスというよりは放送事業者側に当たるのですが、「ひかりTVどこでも」という文字通りひかりTVがスマートフォンなどどこでも見られるAndroidアプリをリリースしています。

 ほかにも、手持ちのスマホやタブレットをテレビのリモコン化する「ひかりTVりもこんプラス」、テレビとは全く関係ない「ひかりTVブック」など、アプリ展開には力が入っています。

 また、非公式な場で聞いたのであまり詳しくは書けないのですが、キャンペーン展開も非常にアグレッシブです。AKB48のウェブイベント、じゃんけん争奪戦などを見ていると、ウェブ系キャンペーンの取り回しのうまさとクリエイティブのメジャー感という、正にウェブとテレビのいいとこどりです。

 ちなみに、競合のWOWOWもモバイルのオンデマンドでは「WOWOWメンバーズオンデマンド」を、番組ガイドとして「WOWOWプログラムガイド」をリリースしています。

NHK紅白
NHK紅白
NHK紅白

 最後に、番組単位のアプリとしてNHK紅白を取り上げたいと思います。このアプリから、紅白ニュースの閲覧、過去の紅白の出演者・楽曲情報閲覧、応援メッセージ投稿、審査員としての投票などができました。

 面白いのは、AppStoreで「NHK紅白」を検索すると結果に「NHK紅白歌合戦(無料版)」という勝手アプリが並んで表示されることです。この勝手アプリは、YouTubeから紅白に出演したアーティストの楽曲を検索してきて表示するというものなのです。

 YouTubeのAPIを利用しているクライアントアプリの一種なのですが、「HNK紅白歌合戦(無料版)」というアプリの名称や、検索の結果に表示される動画の内容にアプリ提供者が関与しない点など、キャリアが公式アプリを管理していたフィーチャーフォン時代のビジネスと比べるとなかなか刺激的です。

ソーシャルTVサービスのビジネスモデルと可能性(2)

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許 直人
株式会社ループス・コミュニケーションズ
「In the looop」編集長
1978年生まれ。ソーシャルメディアを中心とした情報サイト「In the looop(イン・ザ・ループ)」編集長。個別企業に対して、ソーシャルメディアを活用した新規事業構築や運用プロジェクトのマネジメントについての支援業務にも携わる。プロジェクトマネージャおよびシステムエンジニアの経験を持ち、ループスでは主に大規模システム開発案件のマネジメントに従事。アジャイルと計画駆動型マネジメントの両立を模索した。開発言語はJ2EE、J2SE、PHP、Ruby、ColdFusion、COBOLなどを経験。WEBシステム、マーケティングなど多様な視点から次世代に求められる顧客コミュニケーションのあり方を日々模索している。FacebookTwitterでも積極的に発信している。

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