日本のソーシャルTVサービスを見る前に、ソーシャルTVというカテゴリに業界が注目する理由を少し考えてみましょう。
ソーシャルTV、本稿の定義によれば、テレビのビジネスモデルにインターネットのパラダイムを組み込むための取り組みの多くは、エンジニアからすると「電波とネットを両方使って何かしよう」という取り組みにすぎません。確かに、実装レベルではそうなんです。たったこれだけのことに、なぜ注目したいのか。
前提として、あらゆる広告、あらゆるコンテンツは生活者一人一人にそれを届けるため何かしらのネットワークを必要とします。デジタルコンテンツ市場7兆円超、ネット販売(Eコマース)8兆円超、広告費5兆円超。それらすべての裏側に、デリバリネットワークという概念上の市場があります。生活者に、効率良く、大量の広告やコンテンツを届けられるインフラはいつの世でも莫大な利益を得ます。
例えば、新聞社やテレビ、雑誌のような、情報流通において大切な要素を握る会社の売上高を見てみるとよいでしょう。特に、流通を寡占できると、競争力は長期間に渡って発揮されます。
今回取り上げたテレビも巨大なデリバリネットワークのひとつです。一説によればHUT(Households Using Television、総世帯視聴率)が減少しているといわれている昨今、放送事業の中でも、特にリーチを源泉としたビジネスは、今後10年くらいでその構造に何らかの変化が訪れるはずでしょう。
きっかけは、間違いなくインターネットであり「ソーシャルビューイング」「テレビアプリ」「スマートTV」などは変化の予兆ととらえることができます。
突き詰めれば、生活者の可処分時間の奪い合いという構造になってくるのですが、何しろテレビ業界は、動くお金が大きいのです。動くお金が大きいということは、関係する人が多いということになります。関係する人が多いということは、例えば国の関与があったり、企業の利害があったり、たくさんの利用者の一人ひとりの想いがあったりと、大変なわけです。そして、たくさんのお金が動く、その大変なことの裏側に、ビジネスのスイートスポットがあるのではないかと思うのです。
インターネットの、特にモバイルの流通を支配するのはだれなのか。そこにテレビ視聴に費やされていた可処分時間の一部が流れこむ可能性があります。若者ほどインターネットに費やす時間が長いことを考えると、時間の経過とともにますますその流れは加速してくるでしょう。その可処分時間を費やすメディアの変化に付随して、1.7兆円というテレビ広告費の一部を新たな流通経路の支配者が得ることになる。
その支配者は放送業界から来るのか。インターネット業界の王者がかすめとっていくのか。それとも全く新しいパラダイムを生み出せたベンチャー企業か。
そのような視点で見ていくと、テレビとネットというシンプルな取り組みが、業界を股にかけたダイナミックなシェア争いに見えてくるでしょう。ソーシャルTVサービス構築にかかわる人々は、まさにそこに熱狂しているのです。
次ページ以降は、日本のソーシャルTV関連サービスに焦点を当てたいと思います。
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