2013年の展望

スクエニ「特モバイルニ部」に聞く--スマホゲームのこれまでとこれから

 スマートフォンの本格的な普及により、大手ゲームメーカーも続々とスマートフォン向けにゲームタイトルをリリースしている。スクウェア・エニックスもその1社で、コンシューマゲームの移植もさることながら、意欲的なオリジナルタイトルも多数投入している。そして社内部署のなかのひとつに、主にスマートフォン向けゲームを手がける特モバイル二部がある。

拡散性ミリオンアーサー
「拡散性ミリオンアーサー」
(C)2012 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Developed by Mighty Craft Co.

 この部署が手がけたゲームでは、基本無料ながら、ソーシャルゲームでマネタイズの主流となっているガチャを廃した「ガーディアン・クルス」。また、カードタイプのソーシャルゲームながらも、「とある魔術の禁書目録」(インデックス)の作者である鎌池和馬氏によるシナリオや、著名イラストレーターの起用、音楽面も含めてスマホ向けに作りこんだ「拡散性ミリオンアーサー」がある。特にミリオンアーサーは4月に配信されて以降、現在においてもApp Storeのトップセールス上位に位置している。

 この特モバイル二部を率いるプロデューサーの安藤武博氏に、メールインタビューという形で、今年1年の振り返りと今後のスマートフォン向けゲームの動向や取り組みについて聞いた。

――まず、特モバイルニ部がどういう部署なのか教えてください。

 今年の4月1日に新設された部署になります。私も含めコンシューマゲーム機のソフトを手がけてきたプロデューサー数名が中心になって立ち上げました。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの大型IPを取り扱わず、原則としてオリジナルタイトルをプロデュースしていることが大きな特徴です。守りに入らずに徹底的に攻めて実践する組織として、弊社のモバイル事業部からスピンオフする形で結成されました。スマートフォン向けゲームを舞台として、ゲーム機専用タイトルに負けない面白さと、最新のネットワークサービスを両立し、今後の20年を背負って立つ新規タイトルを創出することに特化した部署です。そしてこのことの実現のために「誰よりも速く」「誰よりも面白く」「誰よりもたくさん」を現在の部門訓にし、最強に面白い携帯電話向けのゲームをたくさん生み出すという強い気持ちを、特モバイル二部の各員は持っています。

 今後は、ゲームデータのクラウド化が進み、ゲームが動けばハードは問わない時代がやってきます。そのためにもスマホだけではなく、必要に応じてさまざまなプラットフォームのゲームを制作できる体制を組織しているため、モバイル二部の頭に特殊の「特」をつけています。これはモバイルだけにとらわれないという意思を標榜するものです。余談ですが、30代以上の方はお気づきかと思いますが、「特車二課」に強いインスパイアを受けて命名されたらしい…というのが、もっぱらの噂です(※命名したのは私です)。

――安藤さんはどういうきっかけで、スマートフォン向けゲーム開発に携わるようになったのでしょうか。

 私のプロデュースで、2005年9月にPS2で発売した「ヘビーメタルサンダー」というゲームがあります。多くの豪華キャストに参加していただいた、いまだに私の自信作といえるものなのですが、私のプロデュースが下手だったために、商業的には恐ろしい額の赤字が出たタイトルです。

 一時は責任をとって退社を考えたほどでしたが、周りのサポートもあり、コンシューマゲーム機での目の覚めるような失敗体験が、例えば「価格が6800円」「パッケージ商品を店頭に陳列する」という形にとらわれないゲームの売り方を考えるいいきっかけになりました。オリジナルタイトルをお客様が手に取りやすい方法は他にないだろうかと、ずっと考えていたのですが、そこで私が思いついたのが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いになっていたミュージックプレイヤーのiPodをゲーム機として見立て、iTunes Storeでゲームを音楽のように売るというアイデアでした。

 Apple本社に早速プレゼンテーションにいくと、偶然にもiPod向けにゲームを配信する計画があることを知りました。そこで開発したのが、2008年7月にクリックホイール付iPod専用のRPGとしてリリースした「ソングサマナー」です。スクエニ初の、全世界同時ダウンロード販売だったこのタイトルはヒット作となりました。そして、この作品でAppleとお付き合いを始めた最中にiPod touchが発売され、しばらくしてから電話の機能が追加された画期的なデバイスである、iPhoneが発売されたのです。

 こうして気づけばコンシューマゲームのプロデューサーから、スマートフォン向けのゲームを開発することになりました。ですので、私はいまだにiモード全盛期のモバイル事業のあらましを知りませんし、いわば純粋なスマートフォン向けゲームの開発者ということになります。

――1年を振り返るとソーシャルゲームやモバイルゲームでは、カードバトル系の隆盛や「コンプガチャ」をはじめとしたガチャ課金なども話題に挙がりました。

 我々が展開しているタイトルも、まさにカードとガチャ課金を中心に据えているものが多いので自戒を込めて書きますが、あまりにも似たようなタイトルが増えすぎました。これはひとえに「ドラゴンコレクション」でKONAMIの兼吉さん(コナミデジタルエンタテインメント ドラコレスタジオ 兼吉プロダクション エグゼクティブプロデューサーの兼吉完聡氏)が創られたカードバトルゲームのフォーマットがいかに偉大だったかに尽きると思います。

 これほど、展開しやすいゲームシステムの雛形は「スペースインベーダー」以来ではないでしょうか。当時も安易な模倣品が跋扈して、インベーダーを雛形にしたシューティングゲームが大量にリリースされました。そのタイプは2種類で、内容がまったく同じでタイトルだけ変えたものと、優れた発展改良を加えたものに分かれていきましたが、現在のカードバトルにもまったく同じことが言えると思います。

 ここ2年ほどは主戦場がフィーチャーフォンで端末のスペックが低かったせいもあり、前者のような側(がわ)変えでも通用しましたが、スマホが主戦場となり表現の幅が豊かになった2012年の初頭あたりからは、単純な模倣作品では厳しくなってきています。後者であっても、お客様から見て中身に大きな差が感じられないという状態が続かないように、今後はまったく新しい遊びや課金システムも、もちろん必要になってくるでしょう。

 2012年2月に登場した「パズル&ドラゴンズ」のパズルとRPGの融合や、魔法石によるコンティニュー課金という新機軸が、圧倒的な数のプレイヤーに支持されています。これは同じようなゲームだらけの砂漠に、絶妙のタイミングで恵みの水がもたらされたということに他ならないと思います。おそらくお客様は、カードバトル系ソーシャルゲームの大して変化のないゲームシステムのことや、現在の膠着した状況を蔑称として「ポチポチゲー」と呼んでいるのではないでしょうか。

――特モバイル二部として、この1年取り組んできたことを教えてください。

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