ASUS製品が生み出される哲学とこだわり方--Jonney Shih会長

別井貴志 (編集部) 坂本純子 (編集部) 撮影:津島隆雄2012年11月29日 09時00分

 Windows 8の登場により、PCとしてもタブレットとしても使えるハイブリッド型の製品が登場し始めた。360度にヒンジが曲がるもの、スライド型のもの、セパレート型のものなど、さまざまな形のPCが生まれている。

ASUS TAICHI
ASUS TAICHI

 台湾メーカーのASUSTeK Computer(ASUS)が11月に発表した11.6型のウルトラブック「ASUS TAICHI」もこれまでにない製品のひとつだ。ASUS TAICHIは、普通のノートPCと思いきや、天板面にもディスプレイを搭載するデュアルスクリーンを特長とする。

 かつては100円PCとしてネットブック「Eee PC」が一世を風靡。最近では、PCだけでなくスマートフォンやタブレットなども手がけており、日本でも発売されたばかりの7インチのタブレット「Nexus 7」は最新の機能と値頃感で注目を集めている。

 勢いにのったASUSは、現状に満足することなく新たな可能性に挑戦するとし、“Incredible(インクレディブル)”を同社のマニフェストとして掲げる。ASUSが目指すものはなにか。ASUSTeK Computerの会長Jonney Shih(ジョニー・シー)氏に聞いた。

――今回のTAICHIには、ダブルスクリーンが採用されています。最近は、360度にヒンジが曲がるもの、スライド型のもの、セパレート型のものなど、さまざまな形がありますが、このダブルスクリーンに至った理由はなんでしょう。

 ここに行き着くまで、さまざまなプロトタイプを作りました。360度回転する案もその中にはありましたが、最終的に採用しませんでした。スライダー型も考えましたが、キーボードのスペースに影響を与えるということで採用しませんでした。顧客視点で考えた結果です。

 タブレットとして使う場合はディスプレイが主役にならないといけない。角は意図的にダイヤモンドカットしました。こういうところはカンタンに見えるかもしれませんが、デザイン的には難しいのです。

 また、薄型にしながら電池寿命もしっかり確保しないとならないのは大変なことです。オーディオを良くしたかったら大きなスピーカにしたくなる。電気のエンジニアとメカニックとの間で当然やりとりや調整が必要になる。エンジニアは“左脳”だけじゃ絶対できない。頭の中で、回路がどうなっているか、論理的なところも含めて開発していかないとなりません。もちろん、考え、話すだけでなくて最終的に製品として物理的に完成させていかなくてはならない。シンプルだけど、アインシュタインのような強力なインパクトが必要です。

ASUSTeK Computer会長のJonney Shih(ジョニー・シー)氏
ASUSTeK Computer会長のJonney Shih(ジョニー・シー)氏

――発表会で、「パーソナルコンピューティング」から「ユビキタスクラウドコンピューティング」の時代へ変わるという話がありました。この流れについてもう少し具体的に教えていただけますか。

タブレットの背面にスマートフォンをドッキングできる「PadFone 2」
タブレットの背面にスマートフォンをドッキングできる「PadFone 2」

 これまでもPCを仕事場や家など、さまざまな環境で使っていたと思います。ユビキタスコンピューティングの時代では、仕事場のひとつのコンピュータ環境に縛られることなく、どこでもいつでも、必要なときに移動しながらでも常に利用できるということです。

 ユビキタスコンピューティングの例を見てください。(スマートフォンを見せて)例えばこれは外ではいいかもしれませんが、家の中では小さいですね。(タブレットにドッキングさせ)このように組み合わせて使える。これは1つの例です※(日本では未発表、未発売の「PadFone 2」)。

 (スマートフォンの写真をタブレットに映し出しながら)この写真は本社のほうからランダムに道の向こうにあるビルを撮ったものですが、拡大しても非常にクリアです。これまであった、ユーザーが感じていた制限、限界というのがどんどんなくなっていく。これが大きなユビキタスクラウドコンピューティングへの時代の移行、ということです。

――ASUSにおけるマニフェストとして“Incredible(驚くべき、信じられない)”というキーワードを掲げています。新たなことに挑戦する人に向けたサポート製品を作っていく、とのことですが、そういった製品づくりに向けた具体的なイメージの共有は社内でどのように行っているのでしょうか。

 “創造の世界を超えていく”──Incredibleの考え方についてお話しましょう。社員とコミュニケーションで使った資料があります。カンフーの師匠と3人の弟子がいる絵です。どういうことか説明しましょう。師匠は弟子たちに、厳しい道をいくか、容易な道をいくか選びなさい、とテストをしました。容易な道にはきれいな花があって、おいしい食べ物がある。楽な道です。

 ある弟子は、試練の道を選びました。トラが出てきたり試練が待ち構えている道です。最終的にその弟子は厳しい道を行きながらカンフーの道を極めました。もう1人の弟子は、結局どうしようかと迷っているうちにタイミングを失いました。

 試練の道を選ぶというのは、企業にとっても社員にとっても一番難しい決断のはずです。でも、確固たる信念を持つことによって、必ず解決でき、さらに新しいレベルに到達できる。でも、たやすい容易な道を選んでしまったら、ほかの競争している人たちの上に立つことはできません。

 もうひとつ“Design Thinking”の話しをしたいと思います。これは、ダビンチとモナリザの絵を使って説明しました。その絵は右脳がモナリザ、左脳がダヴィンチになっていて、両者を半分ずつ合成したものです。基本的には左脳的なエンジニアの考え方をすれば、コストだとかスペックだとかの狭義なところにとらわれがちです。そこに右脳的な考え方を取り入れていくというのが、Design Thinkingです。

「PadFone 2」
「PadFone 2」

 右脳左脳のバランス、両方のポイントをエンジニアもデザイナーもお互いに理解し合うことが必要になってきます。例えば、メモリが何ギガバイトだとかCPUがどうとかのスペックだけなら左脳に偏った考え方です。

 両者の相互理解で生まれた製品のひとつとして、PadFoneが挙げられます。PadFoneはノートPC「ZENBOOK」と同じ薄さなんですよ。PadFoneは、スマートフォンとタブレットが一体化できるようになっています。しかもこれをすべてあわせても、新しいiPad(iPad Retinaディスプレイモデル)よりも軽いのです(※Pad部分は514g、スマートフォン部分は135gで、両方合わせて649g、最新のiPadはWi-Fiモデルでも652g)。“試練の道”を選んだというのは、こういうものを開発することにしたということです。

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