Appleの共同設立者のSteve Jobs氏はかつて、「iPad」開発のためにどのようなマーケット調査を行ったのかと尋ねられた。
「マーケット調査はしていない」とJobs氏は答えた。これは同氏の言葉として最も有名なものの1つだ。「消費者が何を欲しいのかを考えるのは、彼らの役割ではない」(Jobs氏)
ユーザビリティの第一人者であるJakob Nielsen氏による「Windows 8」への最近の批判を読んだ時、筆者はJobs氏のその言葉を思い出した。Nielsen氏はPCとMicrosoftの新タブレット「Surface」の両方でWindows 8を使った「12人の経験豊かなPCユーザー」を調査した結果、そのユーザビリティは「期待はずれ」であるという結論に達した。
懸念される点は数多くあるが、最大の懸念事項は、Windows 8があまりに使い慣れないものであることのようだ。同氏はSurfaceに搭載された新しいタッチインターフェースと、従来型の「Windows」デスクトップのどちらの場合でも、「ユーザーはどこに何の機能があるのかを学び、覚えておく必要がある」と書いている。また同氏は、「微妙な影を投影して、クリック可能なものの存在を示す、疑似3Dモデルまたは照明モデル」がないために、アプリケーションや情報を発見するのが難しくなっているとしている。
12人の経験豊かなPCユーザーというのが、意味のある見識を得るためのサンプルサイズとして十分な大きさかどうかを判断するのは、ほかの人に任せたい。筆者にとっては、そもそもMicrosoftがユーザーをそこまで気にするべきかどうかという疑問の方が大きい。
大幅に変更された製品を人々が試す様子を観察する場合に問題とされるのは、そうした人々が苦労しながら進むものだということだ。それは人間の本質だ。われわれはいつでも、なじみのあるものの方が安心して使える。Jobs氏はその点を理解していたために、マーケット調査をさほど重視しなかった。このような理由から、新しいWindowsのインターフェースはユーザーにとってすぐに理解可能なものであるべきという考えは、漸進主義の原因となっている。
シアトルのデザイン会社Teagueのクリエイティブディレクターであり、インタラクションデザインの専門家であるTom Hobbs氏は、「ユーザビリティに対する考え方としては、それは非常に時代遅れだ」と語る。
Microsoftは、革新が欠けているという汚名を着せられがちな企業ではあるが、同社がWindows 8で目指したのは漸進的な改善ではない。MicrosoftはAppleのiPadが支配している新しいタブレットコンピューティングの世界で競争するために、Windowsの支配権を高めようとして、タイルベースの新しいユーザーインターフェースを採用した。
「Microsoftにとって、新しいパラダイムを避けて漸進的な変化を支持することは、自殺行為になる」(Hobbs氏)
一方Microsoftは、127カ国超でユーザビリティテストを実施し、ユーザーにとって最も適切な情報を見つけられるOSに磨き上げたとしている。また、長年のMicrosoftウォッチャーであるPaul Thurrott氏による最近の動画では、Windowsユーザーエクスペリエンスチームのプログラム管理ディレクターであるJensen Harris氏が、大幅な変更の必要性を認めている。
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