「消費者や一般国民の立場から見て疑問がある」――携帯電話事業者へのプレミアムバンド(700~900MHz帯)割り当て直後ともいえるタイミングで発表されたソフトバンクモバイルのイー・アクセス買収について、大阪大学・大阪学院大学名誉教授で情報経済研究所所長を務める鬼木甫氏は、総務省などに慎重な判断を求める意見を公表した。
鬼木氏が提示した要望は大きく2点。「電波割り当てに対する対価支払いを義務づけること」、そして「競争促進の観点から安易な市場寡占化を進めさせないこと」だ。いずれも今回のソフトバンクによるイー・アクセスの買収および合併に対し否定的な見解につながるものであり、後者については公正取引委員会の積極的行動についてもうながしている。
改めて、鬼木氏に本意見に関する詳細を聞いた。
まず強調したいのは、周波数を無償で割り当てられた直後に、買収・合併によって別途周波数を獲得するというやり方は世間一般の常識に反するものであるということ。周波数はいわば国民の財産であり、所有者はあくまで国民。無償で借りている立場の事業者が勝手に金銭でやりとりするという行為は極めて問題であると考えます。
無償割り当て直後に周波数を売り払うという先進国ではありえない事態を招いたことについては、当事者同士だけではなく管理を任される国および総務省にも責任があると考えます。たとえば「割り当て後は10年間は競争相手事業者への譲渡を禁止する」などのルールをあらかじめ盛り込んでおけば防げた事態であり、パブリックコメントを含めそうした意見が出てこなかったこと自体は関係者全体の不注意と言えるかもしれません。
私はオークション制度導入推進の立場であり、今回の意見でも早期導入を解決の一手として示していますが、実際に電波オークション制度が導入されていたとして、こうした事態を100%防げるということではありません。一方、今回のプレミアムバンド割り当てがオークションによって行われていたとするならば、周波数に対し一定の対価を支払った上での行動ということになり、その後の買収についても異なる捉え方ができると思います。
ここで問題としたいのは、無償で割り当てられた周波数をあたかも自社の資産であるかのように扱って、これを譲渡していることです。割り当ての際に前提とされていた電波の利用条件を変えるのであれば、まず免許を返還した後に行動するのが常識でしょう。
正直、驚きました。後で聞いたところでは、金融業界などの視点では十分可能性が指摘されていたようですが、少なくとも電波関連、通信関連業界の見方ではこのタイミングで事業を譲渡してしまう可能性は指摘されていなかったように思います。
もちろん、総務省などが「だから予見できなかった」というのが許されるわけではないでしょう。ただ、どうしても経営が厳しいということであれば、既存事業者以外を対象とすることで、現行4社の競争体制維持に努めて欲しかったと考えます。
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