我々はシード投資を偶然から必然にする--インキュベイトファンド - (page 2)

和田:我々はインキュベイトキャンプというプログラムを展開しています。書類による選考と面接で合宿に参加する約20名の起業家を決定します。合宿は半年に1回開催していて次回は10月に予定しています。合宿前の約3カ月で応募してきた方にはいろいろな起業家とコンタクトをとってもらったり、こちらの投資哲学などを共有するんです。合宿の中でプランをブラッシュアップしたりして投資先を決定します。ここがゴールですね。

本間:アフタープログラムなど合わせると、同じ起業家と何十時間と一緒に過ごすわけです。私たちが彼らをジャッジする時間であると同時に彼らも私たちをジャッジする。通常の投資は、事業プランを見て、数時間ミーティングして決定するじゃないですか。エンジェル投資にしても「君、見込みあるよね」って話をして、比較的すぐに投資をしたり。でもそういう方法だけでは、継続的に投資を成功するということを期待できないと思っています。

 私たちはこのシード期の投資というものを「偶然」の産物ではなく、「必然」のものにしたいんです。合宿を通じて接触機会を増やし、相互に理解が深まる。投資家ってそれぞれパーソナリティも違うし、本を読んだだけではわからないんですよね。

和田:ハードワークに耐えられる、正直、人格者、こういった要素は当然必要になります。応援団としての仲間やユーザー、投資家を集められるか。ビックマーケットを狙えるか。このあたりの資質については、合宿プログラムでのピッチなどを通じて、「本気度」が見えてきます。合宿には多くの投資家が参加しますが、それぞれの投資家で感性も違います。なので、それぞれがいいと思う人物を発掘したりもします。書類やデモだけの合議制というのはシード投資にふさわしいか懐疑的です。

--シード期の投資は人物評価ありきで、事業プランは二の次ということを言う人もいます。

本間:そんなことはないですよ(笑)。それって言い訳なんだと思います。正直、人がいいかどうかなんて、大体誰の意見も一致するものです。事業モデルをどのようにするかは大変悩ましい問題なんです。たとえばある起業家がゲームを作りたいとする。でもあんまりイケてない。そこで一緒に「なんでやりたかったのか」とセットバック(後退)するんですね。

 そうすると実は「人を喜ばせたい」といったゴールが見えてきます。それならば、こういうことをやればそのゴールが実現できて、さらに出資もできるんじゃないかという話になります。そういう「交点」を探せるかどうかなんです。投資先のMUGENUPがそういう事例ですね。キャンプでは全然違うプランを発表していましたが、その後両者で納得いく事業を考えだ出せました。

--ファンドの状況について教えてください。

本間:2010年5月に設立、1号ファンドは28億4000万円で、投資実績としては現在で約30社。キャンプ出身者もここに9社含まれています。思ったより早く成果が出ているなというのが実感です。ただ、まだここからみんなが驚くところまで積み重ねたいですね。

--支援先には具体的にどのようなプログラムを提供されていますか。

和田:投資先とは週1回の定例会議をやってます。具体的な経営マターや開発についてですね。採択されなかった方については、合宿終了後の3カ月間でアフターセッションを実施し、プランのブラッシュアップや変更、数字などの検討を重ねていくことで、改めてプログラムに採択される可能性を探ります。

--出資についてのルールや考え方を教えてください。

和田:3000万円の評価に対して300万円を普通株式で出資するのがベースです。これに加えて起業家の方針にあわせて3つの選択肢を用意しています。1つめは3000万円ほどの資金で収益化できそうな場合に私たちが次(の資金)を用意する方法。2つめが転換社債で1000万円を上限に資金を提供し、次のラウンドを一緒に考える方法。3つめが外部からの資金調達を目指して投資先をアレンジする方法。

--転換社債が一番難しいですね。

和田:投資先にCB(Convertible Note:転換社債)で実施している例があります。お互い評価額を決めにくい場合ですね。私たちのCBはノーキャップなので、たとえば1000万円の転換社債を活用して次回の評価を上げることに成功すれば、野心的な起業家にとってメリットがあるようにしています。

本間:この数字はこれまでの経験則や実地に基づいた数字なんです。ただこれらはあくまで目安であって例外事項は対応していきます。また、株の持ち方は通常のファンド同様に持ち続けるのが基本です。次のラウンドが決まり次第売るということはないです。

--今後の起業支援のあり方としてファンドやインキュベーターはどのようになっていくとお考えですか。

本間:シリコンバレーのインキュベーターとも話をしますが、米国では転換社債ひとつとっても、すぐに転換できるだけの評価が次のラウンドでついたりしている。だからその仕組みを日本にそのまま輸入することはできないのです。ここがVCならではだと思うんですが、とにかく起業家が成功しやすい手法については、こだわってどうチューニングすればいいか考えるんです。

 結果的にシンプルなモデルが残る。ITバブルの頃もインキュベーションにはさまざまな派生が産まれましたが、ブームが去れば、やはりファンドが支援者であり続けました。起業家を支援するためにファンドを運営する。これがシンプルかつ本筋だと思っています。ファンド運用者としては、大きいファンドの方が儲かるわけです。でもシードステージからやりたいんです。だから大きいところから(シードに)降りてきました。

 小さいファンドをやることでの弊害やしわ寄せは自分達がローコストで運営すればいいことだし、起業家やLP(リミテッドパートナー)に寄せるべきじゃない。それもVCとしての我々のポリシーです。

和田:シードやアーリーでは起業家で成功した人がエンジェルに回るでしょう。一方でミドルやレイターといったステージには巨額の資金調達が必要とされるはずです。その資金ニーズに応えられるだけのビックサイズのファンドが活躍すると考えています。その二極化はどんどん進むでしょうね。

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