さて、これまで挙げてきた主要部品の価格を足し合わせ、組み立て費用やら輸送費やら何やらもろもろのコストを積み上げて原価を推定してみよう。ざっと計算してみると7157円。C/R類など結構高めに見積もってこれぐらいである。簡単に表にまとめてみたので興味のある方はこちらで試算表を確認してみてほしい。
E-Parts | 想定価格 | 備考 |
---|---|---|
Freescale MCIMX507CVM8B | 7.92ドル | |
Sub SoC TI MSP430F2272 | 1.8ドル | |
Wi-Fi Module CyverTan | 4.8ドル | |
EPD Module PVI | 20ドル | |
LiPo Battery | 5ドル | |
DDR Memory | 3ドル | |
SD Card | 4ドル | |
PCB | 4ドル | |
Power IC | 2ドル | |
Connectors | 3.2ドル | mUSB、EPD用、MicroSD×2、各0.8ドル |
Other small E-Parts | 13ドル | C/Rの類 |
Mech Parts | 想定価格 | 備考 |
---|---|---|
Cabinet | 4ドル | |
Alloy frame | 2ドル | |
Package | 1.5ドル | |
Manual | 0.8ドル |
Other fee | 想定価格 | 備考 |
---|---|---|
Assembly | 10ドル | |
Shipping | 0.2ドル | 40フィートを1本で30万、50パレ、1パレあたり500個として試算 |
USB Cable | 0.6ドル |
subtotal | 87.82ドル |
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日本円 | 7025.60円 |
と、まぁ真面目に積み上げ式で計算したものの、Computex Taipeiなどの展示会に行って、iMX50x系SoCを使ったWi-Fi内蔵、タッチ形のEbookリーダーを展示しているところを探し、1万台でいくら?と聞いてみれば話はとっても早い。だいたいが85〜90ドル付近だねという回答をしていた。10万台時の価格ともなると相手も構えてしまってなかなか価格を言ってくれないので真相は闇の中だが、90ドルよりは安くなるのは確実だろう。となると、まぁ7000円は切ってるんだろうねという読みは当たらずとも遠からずといったところではないだろうか。
さて、6000円台の仕入れ値だと仮定すると、7980円という価格は挑戦的なのだろうか? これが通常の家電製品同様に量販店中心で扱われるようなら挑戦的な価格といえる。まったく同じハードウェアを家電メーカーが仕入れて通常の店頭流通に流せば1万5000〜2万円前後のメーカー希望小売価格となるからだ。ただ、楽天市場での直販にほぼ限定することで、彼らが対外的に支払うのは200円程度の個別配送費とクレジットカード決済手数料数1〜3%(カード利用者に限る)となる。合算すると多めに見積もっても500円程度で、それでも500〜1000円以上は利益分があると推察できるため、このコストを関連人員の費用とコールセンターの運営費にあてて……という事業計画が見えてくる。チャレンジングな事業ですが端末そのもので赤はだしませんよ、という大変堅実な計画のように感じられるというわけだ。
もっとも、Koboは一応店頭でも販売しているので、ここのカラクリというか量販店とのマージン率の交渉がどうなっているのかは大変興味深い。だが、ヨドバシカメラとビックカメラでの扱いはポイントが1%となっていること、ケーズデンキとヤマダ電機での扱いがないことなどを鑑みると、通常の家電製品同様の卸率になっていないことは明らかだ。マージン率の推定など具体的な数値はここでは避けるが、定量的な参考数値としてヨドバシとビックが揃って5%のポイント率としているのが、マージン率が薄いとよく噂になるApple製品。同じく卸し値との関係かと推察され、ポイントが安いことで有名な携帯用ゲーム機PlayStation Vitaやニンテンドー3DS LLも揃って5%だ。こう見ると、1%が如何に異常値であるかがわかり、量販店側が業界通例的には「無茶な数字」にOKを出したのだな、と見ることができる。とはいえ、ヨドバシカメラの旗艦店ともいえる秋葉原店店頭を視察してみたところ、45cm台1個でライブモック1台のみ、POPもA4モノが1枚だけでメーカー説明員もなしという状況だったことからも、現時点では店頭に力を入れるつもりがないことがわかる。量販店でも売ってます、と言うことに意味がある場面は多いので、そのために用意したのかな……と邪推してしまうぐらいだ。
というわけで、7980円の赤字覚悟の大セール価格でEbookの普及に貢献!というわけではなく、端末販売で赤は出さないように堅実に設定した価格、というのが真相ではなかろうか。ただし、家電量販店の物流を介さず配信事業者が端末を直接販売するのがメイン……という方式自体が「挑戦的」であり、結果的に7980円という手ごろ価格を実現できたのだ、とするとそれはそれで間違いではないといえる。米Amazonが5年前となる2007年11月に行ったことのコピーではあるが。
……と、まとめてしまいたいところだが、最後に1点だけ。ハードウェアでの事業に携わる身としては、挑戦的だよね、という部分は多いにあると思っている。それは「ほんまに10万台売れるんかい?」という点だ。これは、結論として10万台を初回出荷だけで売ってしまったあとでは何だって言えるのだが、一定台数をコミットして製造しなければ価格が下がらないというハードウェアビジネスの世界に対し、数千台しか売れないかもしれないところを何万台を(恐らく)コミットしたであろう楽天の心意気というか、気合というか、事業計画の立て方と実行力、そしてキーマンである本間さん(楽天執行役員の本間毅氏)の人選はすばらしいものであり、それこそが「挑戦的」であったといえるだろう。
Koboのソフトウェアとサーバシステムはなかなかによく仕上がっており、国内唯一の「まともにネット連携するEbook」として今後の展開に期待したい。
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