「起業家は投資家に早く会いに行くべき」--VCらがスタートアップの資金調達を語る

岩本有平 (編集部)2012年07月10日 19時58分

 起業家やエンジニア、デザイナーら「何かを始めたい」という人たちの出会いをテーマに、Startup Datingが7月7日に開催したイベント「Tokyo Meetup 2012」。2つめのセッションでは、「スタートアップが知っておくべき資金の集め方とは」をテーマに、ベンチャーキャピタリストやインキュベーターらがそれぞれの考えを語った。

 セッションに登壇したのは、MOVIDA JAPAN(MOVIDA) チーフアクセラレーターの伊藤健吾氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ(グロービス) パートナーの今野穣氏、インキュベイトファンド 代表パートナーの本間真彦氏、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV) ディレクターの宮沢靖雄氏の4名。モデレーターはベンチャーファンドANRIを5月に立ち上げたばかりの佐俣アンリ氏が担当した。

「多産多死」の受け皿を含めたエコシステムが必要

 それぞれ投資の規模や手法も異なる4名だが、MOVIDAはインキュベーションプログラムがメインとなっており、インキュベイトファンドも投資に加えてインキュベーションプログラム「Incubate Camp」を展開している。そのため4人の中でも伊藤氏や本間氏はインキュベーターとして、起業前からスタートアップと関わることが多い。そんな2人は、最近の起業家をどのように見ているのか。

 インキュベイトファンドは、gumiやポケラボなどへの投資実績がある。本間氏は同社の投資の姿勢について、投資家としての判断と同時に、(起業家が)やりたい事業なのか、合理的なのかを長い時間かけて話し合って投資するという。

 投資対象のジャンルを限定することはないが、重要なのは、「事業としていかに成長するか、そして次のステージを担う大手のベンチャーキャピタルがどのように考えるかを考えること」(本間氏)だという。これらの考え方を合意できる起業家にこそ投資していると説明する。

 一方の伊藤氏は、シリコンバレーの状況に触れ、「年間1万7000社が生まれて、1万2000社が消えていく状況。(スタートアップの)数が質を生んでいるところもある。僕らは数を増やさないといけないと考えている」と語り、同社が起業家の裾野を広げることを重要視していると説明する。同社が手がけるプログラム「Seed Acceleration Program」の第3期は5月末に締め切ったが、約60件の応募のうち半数が学生のものだった。「若い人が来るようになっている実感はある」(伊藤氏)

 MOVIDAでは投資の際、事業計画やアイデア以上に、起業家の人間性を重視するという。「人を見て、『やりきる根性があるかどうか』を見ている。若い人は伸びしろがある」(伊藤氏)。またビジネスアイデアを持っている起業家に対しては、「動くモノ(サービスや製品)がないと評価できない」(伊藤氏)とコメント。アイデアがあるのであれば、せめてプロトタイプを見せられる状態で投資家と話をすべきだとした。

「資金調達できる起業家」の条件

 最近では、若手起業家のプレゼンテーションの質も全体的に上がってきていると語る佐俣氏。だがその一方で、資金を調達できる起業家と調達できない起業家の差はひらく一方だという。

 これについて今野氏は、「(創業時を指して)0から1の変化率は若い人が高いが、その先は未知数。最初に調達した額でどうラーニングして事業を進めてきたかで結構差がつく」と分析する。

 また、伊藤氏が語った起業家の数を増やさなければいけないという意見に同意した上で、「米国でもシードアクセラレーターは多産多死。受け皿がないと生態系は壊れたままになるのではないか」とコメント。単純に起業家を育てるだけでなく、失敗した起業家たちのセーフティーネットの必要性にも触れた。

 今野氏が所属するグロービスは、基本的に100万ドル以上の投資を引き受けるベンチャーキャピタルだ。それと同様にITVも総額60億円のファンド「テクノロジーベンチャーズ3号投資事業有限責任組合」を2011年に組成してから、億単位での調達を続けている。

 宮沢氏は同社の投資戦略について「投資に対してイグジットをどのくらいの倍率、確率で期待できるか」を重視しているという。「数字は置いておいても、(イグジットの)シナリオを描けるか。シード、アーリーへも投資しているが、売上が立っておらず、ポテンシャルでの投資も多い。ただ何年かして数字を出して、投資家としてリターンを得られると思えたから投資した」(宮沢氏)と語った。

 各種インキュベーションプログラムの登場などを背景に、再び起業ブームの様相を呈しているIT業界。登壇した投資家らは、どのように資金を集めるべきと考えているのだろうか。

 本間氏は「数百万円でもまずは自分で集めるべき」と語る。Incubate Campでは、基本的には出資額と同額の自己資金を起業家が集めることが出資の条件となっている。「個人の懐事情はケースバイケースだが、完全に投資家頼りのマインドセットでは経営にも響く」(本間氏)というのが同社の考えだ。

 また伊藤氏もこの意見に賛同しつつ、「資金を調達するにはデット(借り入れによる調達)かエクイティ(株式の発行による調達)、もしくは売上を上げるしかない。まずはそういうところから相談して欲しい」と説明する。またその一方で、「エコシステムを作りたいので、創業資金がなくても育ってくれればいい。プログラムとしてスクールをやっているが、投資対象にならないところも呼んでいる。(スタートアップ)全体のレベルが上がればいい」とも語った。

 一方で今野氏は、起業から最初の資金調達までの期間が早いのではないかと指摘する。「グリーの田中さん(代表取締役社長の田中良和氏)も前職(楽天)に在職中にプランを練っていた。今は起業が目的化していて、『まずインキュベーターに行く』と考えているところがあるのではないか」と軽はずみな調達に対して警鐘を鳴らした。

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