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「AKB48」と「アラブの春」の影響力--世の中を動かすソーシャルインフルエンス

本田哲也(ブルーカレント・ジャパン代表取締役)2012年06月06日 12時26分
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 このコラムにおいて、2012年初頭からテーマにしてきた「ソーシャルインフルエンス」。その総括として、6月11日にアスキー新書から「ソーシャルインフルエンス戦略PR×ソーシャルメディアの設計図」として上梓する。コラムではやむをえず割愛した「世の中を動かす新しい影響力=ソーシャルインフルエンス」の全貌を、223ページに詰めてみた。お読み頂けたら幸いだ。

 そして今回は、新刊の冒頭でも取り上げた、地球の反対側で起こった2つのソーシャルインフルエンス現象をご紹介しよう。

 意外な組み合わせ――革命を起した政治ムーブメントと、ビジネスとして大成功したアイドルユニットのムーブメント――を、「影響の与え方の変化」という観点から見てみよう。

 2010年から2011年にかけてアラブ世界で発生した、大規模な民主化運動が「アラブの春」だ。日本でも広くマスコミで報道されたことは記憶に新しい。チュニジアでの暴動がきっかけとなり、あっという間に運動はアラブ諸国の広範囲に拡大した。背景にはソーシャルメディアの役割も大きいとされ、その規模や拡大のスピードからして前例のない革命のムーブメントとなった。

 いっぽうのAKB48。もはや言うまでもないが、2005年に秋元康氏のプロデュースで誕生して以来、「AKB現象」とも呼ばれる旋風を巻き起こし、2011年には日本レコード大賞を受賞。国民的アイドルグループに成長した。遠い存在だったアイドルの成長をファンが身近に共有するという発想が、これまでにないムーブメントを実現したといわれている。

 いろいろな意味で距離感のある2つのムーブメントだが、これを「3つの影響力変化」という視点で考えてみたい。

 まずは、「影響力のベクトル」。影響力が行使される方向性が、これまでの一方通行から「双方向」に変化している。アラブの春の主役は、明らかに民衆からのボトムアップな影響力だ。

 これまでのような革命リーダーや宗教指導者の扇動ではない。フェイスブックを通じて、モロッコでは情報を共有した若者数千人がデモを起こし、サウジアラビアでは「怒りの日」のデモに1万人以上が賛同した。

 これらの動向に影響を受けた政治指導者が、それをふまえ自らの影響力を行使しようとする。様々な影響ベクトルが交錯しながら革命は進んでいった。

 AKB48では、影響力のベクトルは、AKB48のメンバー、仕掛け人である秋元氏、そしてファン層の間で交錯している。ファンがソーシャルメディアというツールを得たことも大きいが、例えば「○○ちゃんは歌が上手い」「XXちゃんは絵が上手い」という声がファンからあがれば、ソロデビューが決まったり、「美術部」が発足したりする。

 ファン=消費者であった従来のエンタテイメント業界の常識を超えた、ボトムアップの影響力が組み込まれているわけだ。

 次に「影響力の範囲」。これまでよりも高効率に、広い範囲に影響を及ぼすことができるようになった。

 アラブの春では、チュニジアで起こった「ジャスミン革命」が、その後アラブ全域へ拡大していく。この範囲拡大にソーシャルメディアが担った役割はもちろん大きいが、それだけではない。

 そこには「中東のCNN」として有名な報道機関、「アルジャジ―ラ」の存在がある。24時間、カタールから英語・アラビア語で報道するアルジャジ―ラはアラブのインテリ層に影響力を持つ。

 その中間層がソーシャルメディアを駆使してデモに人々を動員する。それをアルジャジ―ラが報道する……というように、いわばマスコミとソーシャルメディアのコラボレーションによって広範囲への影響が実現されていったのだ。

 一方AKB48では、ソーシャルメディアに加えてリアルな場での影響範囲拡大装置があった。それが「握手会」だ。従来のアイドルの握手会とは実にケタが2つ違うほどのスケールで展開され、ソーシャルと連動してクチコミの拡散範囲を広める。

 そして、さらに用意されたのがお馴染の「選抜総選挙」だ。これが従来のアイドルにはないカタチでのマスコミ報道の流れを生む。「選挙」というフォーマットはワイドショーなどのテレビ報道と相性がよい。

 こうした複合的な仕組みによって、AKB48はコアファンから日本全体へと影響範囲を広めていったのだ。

 最後に「影響力のスピード」。これには、「影響の拡がるスピード」と「影響を持つまでのスピード」の飛躍的な向上という2つの意味合いがある。

 30年以上の長期独裁政権が、たった数カ月で崩壊することになったアラブの春は、まさに影響の行使される速度が高まったことを証明してくれる。情報流通インフラが飛躍的に向上したことに加え、個人が与える影響もスピードアップした。

 アラブの春では、グーグルの中近東地区幹部でブロガーのワエル・ゴニム氏が訴えた「ムバラク政権打倒」に呼応し、カイロ中心部に20万人が集結した。

 瞬く間に国民的アイドルとなったAKB48も、この影響スピードの変化を味方につけて成功したといえるだろう。

 とりわけ後半、スピードアップの装置として機能しているのが、Google+上で展開を始めた「ぐぐたす」だ。特に秋元氏とファンの距離はさらに縮まり、結果として情報伝播と意思決定のスピードも高まっている。

 いかがだろう。地球の逆側で、そしてまったく次元の違う領域で起こった2つのムーブメント。「影響力の変化」という観点で見れば、ともにこの時代だからこその事象といえる。

 いずれにせよ(そして望むにせよ望まぬにせよ)、影響の与え方が変化した時代では、ブームやムーブメントの起き方も、このように変化していくのだ。

◇ライタープロフィール
本田 哲也(ほんだ てつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマンヒラード上級副社長兼パートナー。セガを経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマンヒラード日本法人に入社。2006年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心に、戦略PRの実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。2011年2月に「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)を上梓。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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