「三種の神器」というと、皆さんは何を思い浮かべるだろうか? とくに中高年以上の世代にとっては「3C」という言葉が想起されるのではないだろうか。
1960年代のいざなぎ景気時代、カラーテレビ(Color television)、クーラー(Cooler)、自動車(Car)がそれぞれの頭文字をとって「3C」と呼ばれた。歴代天皇に伝わる三種の神器になぞらえた呼称は、豊かさや憧れの象徴でもあり、生まれ変わった日本の希望ですらあった。多くの日本人にとって、「3C」は戦後復興の遠い記憶でもある。
一方で、今回の東日本大震災を、太平洋戦争の記憶に重ねる人は少なくない。「国難」レベルの非常事態、国中を覆う空気感、「復興」への挑戦--いまや国民の多数を占める「戦後世代」でさえも、どこか遠い記憶が呼び起こされるような、奇妙な感覚に包まれたように思う。
いま、日本は、50年前と同様の局面をむかえているとも言える。それは復興への険しい道のりであると同時に、新たな消費習慣の誕生だともとらえたい。
では、かつて日本の成長のシンボルでもあり、また大量消費社会の鏡でもあった「3C」にかわるものはこの先出現するのだろうか。これからの日本の消費経済を牽引する基準はどこにあるのだろうか。
ここで私は、これからの日本の消費習慣を、「3C」ならぬ「3S」というキーワードで提言したい。「3S」とは、ソーシャル(Social)、サスティナブル(Sustainable)、シェアラブル(Sharable)のそれぞれの頭文字だ。
「ソーシャル」は言うまでもなく、社会に貢献できる要素を持った商品やサービスへの関心。「サスティナブル」は、持続可能力。「節約」に代表される従来の狭義な「エコ」を超えた、本来的な意義への脱皮だ。そして「シェアラブル」は、「共有」の精神。震災前から若い世代ではひとつの消費キーワードであった「シェア」を尊重する感覚が、ますます広がるだろう。
またこれらのワードは、「3C」のように「モノ=商品」の頭文字ではなく「コト=行動」の頭文字であることも強調しておきたい。その消費自体が社会貢献につながり、持続可能社会を実現させ、みんなとの共有につながる--そんな行動に価値を見出す。
モノで満たされることに疑問を感じ始めて久しい私たちは、震災というターニングポイントを経て、新たな生活、消費習慣に前進できるチャンスを迎えている。企業にとってはこの「3S」を念頭においたマーケティングが重要になるだろう。
まずは、既存の商品やサービスのラインナップを見渡して、この3Sに合致する価値があるかどうかを見極める。合致していれば、そこを中心にコミュニケーションを組み立てるべきだ。
また、逆行するメッセージを出していることで不利な状況になっていないか検証が必要だろう。将来的な市場投入を目指して現在準備中の企画や開発についても、「3S」の視点で見直すことが重要だ。
新たに生まれた消費マインドが、次世代のヒット商品の誕生につながるだろう。多様化した日本人が、かつてのような「三種の神器」に夢を持つことはもはやあり得ない。
30でも300でも、より多くの商品やサービスが、新たな価値観をベースに開発され、伝えられ、消費されることで日本の消費社会がステージアップする。今、私たちはまさにその扉を開けようとしているのだ。
◇ライタプロフィール
本田哲也(ほんだてつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマンヒラード上級副社長兼パートナー。セガを経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマンヒラード日本法人に入社。2006年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心に戦略PRの実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。2011年2月に「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)を上梓。
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