悪い面だけ注目してもろくなことがない--Winny事件から見た社会規範

 4月29日、幕張メッセで行われたニコニコ超会議内第2回ニコニコ学会βシンポジウムにて、「イノベーションと社会規範」と題したセッションが行われた。

 2004年、P2Pの技術を使った「Winny」の開発者である金子勇氏が逮捕された事件は大きな話題となった。2011年に最高裁による無罪判決が確定したが、この事件によって日本のソフトウェア開発に大きな萎縮効果が生じたとされている。このセッションではその事件を通して、どのようにすれば萎縮効果を防ぎ、イノベーションを促進するような社会規範を作ることができるのかがテーマとして語られた。

Winny事件の支援は個人でできる--「支援してみた」というレベル


新井俊一氏

 冒頭では、今回の座長として進行役を務めるソフトウェア技術者連盟の理事長である新井俊一氏が、Winny事件とそれに向けて取り組んだことを説明した。

 新井氏はWinny事件について「警察や検察が、法律で定められたルールを踏み越えて開発者を無理に逮捕した事件」と説明し「何をやってはいけないかは、国民とその代表者が集まる国会が決めるべきもの」と語った。ただ、日本国民はそのルールを作る意識が薄く、政治活動は危険で難しいものと考えられている。

 しかし「実際にはそんなことはない」と否定し、Winny事件に対する支援活動について説明。新井氏は1500万円の寄付金を集め、主に金子氏を守るための弁護士費用に当てたのだが、その活動としては「ウェブサイトと口座を作っただけ」。全てあわせても数日間で終わってしまう内容で「支援したというより『支援してみた』というレベルだった」。

  • 新井氏によるWinny事件について

  • Winny事件の支援内容

 新井氏は、昨今過剰な規制が作られる社会になってしまっているとし「批判ばかりをしていて悪いことをした人を叩こうという意識が強く、自分が国を動かす主権者である意識が薄い」と指摘。特に日本では縦社会の意識が強いが、自分が社会を動かしているという期待意識と、ポジティブな考え方を持つことが必要だとした。

 自由で自立した個人として、自尊心を持って動くことが重要とし、さらにWinny事件だけでなく一般用医薬品のインターネット販売を認める判決が出た例も挙げ「動けば個人の力でも勝てる。それをみんなでやれば日本はどんどん良くなる」とメッセージを送った。

  • 過剰規制社会について

  • 未来のための社会規範

  • 個人でも戦えば勝てる例

逮捕の理由は幇助の理論を無制限に解釈


金子勇氏

 続いて、現在はSkeed社外取締役である金子氏がWinny事件について振り返った。まずWinnyはP2Pの技術を使ったファイル共有ソフトとして知られているが、それは最初に作った「Winny1」のほうで、その後P2P技術を使った大規模分散BBSを目指して作っていた「Winny2」のほうで逮捕されたという。また逮捕されるまで、警察は金子氏のもとに3度ほど訪れていたという。

 事件を振り返り、金子氏は警察とは争うこともなく協力的だったとし「出された書類にサインをして、気がついたら捕まった」。そして逮捕されて気づいたのは、その捕まった理由が幇助の理論を無制限に解釈したという点で、これが一番の問題と指摘した。そしてその後は完全に黙秘し続けたという。

 事件については「警察も真面目に仕事していた」と語る一方で、新井氏と同様に日本人は真面目だが悪い点に注目して叩く風潮があるとし「Winnyに関しては、悪い点が目立ったと思う」とも続けた。そして日本は完成度の高い良い社会ではあるが、保守的と指摘しつつ、「何事にも良い面と悪い面があり、新しい技術を見つけたときに悪い面を注目してもろくなことがない。ポジティブに考えて未来に進んでいくしかない」と、今後に向けた考え方を示した。

  • 金子氏による事件の振り返り

  • 日本の傾向

  • 金子氏が考える重要なこと

 また最後に、新井氏をはじめ支援した方々に向けて「私が言いたいのは、おかげさまで裁判を最後まで戦えました。みなさんありがとうございました」というと、会場から拍手が送られていた。

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