駒澤大学准教授の飯田泰之氏は経済学の観点から説明を行った。まず「経済成長の源泉は労働・資本(機械等の設備)・イノベーション」としつつ、「イノベーションが大事だということを否定する経済学者はいません。でも、どうやればイノベーションにあふれる社会になるかはさっぱりわかりません」と述べ、「新技術はこれがいける」と思っても、思い通りにならないことも多々あり、将来の先読みは難しいということを示した。例えとして「90年代の半ば、Macはもう終わりで、これからのコンピュータはマイクロソフトの時代だと言われていました。さらに政府は戦後、成長産業は石炭と繊維で、ダメな産業の代表は自動車と鉄鋼だとしていたんです。この予測は当たっていないでしょう」。
そして飯田氏は「イノベーションを増やす方法として、ひとつだけ確実に言えることがあります」として、出てきた言葉が「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」。
イノベーションの種のようなものをたくさん出せば、それが仮に社会的な意味を持つかはわからなくても、そして100万個にひとつかもしれないが、うまくいくものが出てくるかもしれない。ここで経済政策的に大事なのは、みんなに数を打ってもらう環境を整備・定義していくことだとした。
具体的には、「事前規制から事後規制へ」と「許認可から届け出へ」のふたつを示し、政府がお墨付きをもらって絶対安心なものならいいではなく、「やってみた。そしてその後で問題が出たら考える」。ただし、裏を返せば安心や安全の責任を行政には求めない、自己責任度の高い社会になってしまうが、そのような環境でないとイノベーションが何かの偶然で当たることを求めるのは出来ないという。
そして日本の場合は、行政やシステムだけが問題ではなく、最強の規制団体は「世間様」だとして、「世間様に顔向けできるか、世の中の空気が許すか許さないかが重要」と指摘。世論よりももっと漠然としている上、法で規制しても変わるものではないので、世間様を変えるのは極めて難しいとしながらも、「なにかをやってみることが大事。政治に出てみるのもいい。そして失敗しても最低限死なないというのセーフティネットを設ける、その最後の一枚だけが政策の仕事ではないか」とメッセージと提案を行った。
その後の討論では、まず白田氏が提案した「選挙してみた」に関連して、飯田氏が仮想の人物「ニコ生男」をつくり、立候補や選挙活動はしないがマニフェストなどを作り、投票を呼びかけるのを、法律や選挙妨害に触れるのかなどを調べた上でやってみるのはどうかと提案。仮にこれが大きな票を集めてしまった場合、ネットの力が大きいことを伝えられると同時に、ネット選挙活動の効率の良さを示すことができるとし、ネットの力を示す選挙を戦ってみるのもいいのではないかと語った。
また高間氏は議員立法よりも、法律は霞ヶ関でできていると言われているので、霞ヶ関でロビー活動を行った方がいいという案も出された。新井氏も、「ロビー活動してみた」という動きもひとつのありかたとした。また「この超会議やニコニコ動画のカオスの雰囲気や空間を活かして、単に政府や警察が敵だというだけではなく、自分たちがちょっと政治をしてみたという雰囲気がでてくるといい」とコメント。
また飯田氏は、ネットのコメントなどの意見を、ひとつにまとめる方法があれば、民意をくみとることを関係各所がしやすくなるとし、逆にそれができないとしたら、ネットから民主主義という流れは難しいという見解も示した。人々の意見をまとめる機能をネットが持てるかどうかにかかっているという。
高間氏は米国での、オバマ大統領との会食でFacebook社のマーク・ザッカーバーグ氏が隣に座っていた例を挙げ、「アメリカでもネット企業が影響力を無視できないところまできた。それが日本には必要なことで、ネットで日本の経済の何割かを支えられるレベルになると、政治は言うことを聞かなくてはいけなくなる。日本もやるべき段階にきている」と述べた。
新井氏による「官僚の人もアイディアを求めているかどうか?」という質問には、白田氏は、そこでどんなにラジカルな提案をしても、彼らの常識や世間の空気の枠から外れると採用されないとし、「今の世間様は我々のほうを向いてくれないので、ネットで『NEW世間様』を作れないか?」と提案。ただ飯田氏は、日本人の特徴として常識を変えるときに、びっくりするぐらいに短期間で変わるということを挙げた。大学でPCやネットの入門授業が必要なくなったことを例に挙げ「本格的に普及したのが7、8年ぐらいのイメージで、これからだと思います」とコメント。
そして飯田氏は、堀江貴文氏の逮捕について、イノベーションに与える影響は大きいとした。「自分でビジネスを立ち上げて、自分でお金持ちになってこんなにすごいとアピールをするという、成功の一つのロールモデルを提供していたのに、あそこまで厳しく、よってたかって世間様でつぶしたことで、堀江型成功モデルがタブーになってしまった。いろんな成功のロールモデルの中でも、結構面白げなひとつを社会的に抹殺したのはもったいないし、影響は大きい」とし、いい大学や企業に入ってという流れの日本的なイメージの固定化を懸念した。
白田氏は「ニコニコ動画などで人が集まるのは転落していくときで、これを転換しないといけない。落ちていく人を楽しむのではなく、上がっていく人を支えていくようにしないと、ネットでの最終的な力にはならない」とした。飯田氏は「これってマイナーなアイドルを応援してきたファンはわかると思うんです。有名になるまでが楽しい」とし、ニコニコ動画やニコ生発の代表となるべき人を選んでみたいと提案した。「企業でも政治家でも論者でもいいです。この人に関心が持てる、政治家になったらいい仕事をすると思える人を、ひとつのメディアとして確立しつつあるニコニコから選んでみませんか?」。
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